九冊目「じゃらされ見とれて春日和」 ページ13
にゃー、と鈴を転がすような愛らしい声が風にとける。子猫はころころと地面を転がりながら視線を一点に集中させたまま。風にゆさゆさと揺れる猫じゃらしを揺らす主のふふふ、とこぼれそうな暖かい笑みが太陽に照らされる。
「かーいいなー、こやつは」
満面の笑みで猫をじゃらし続けている彼女をみる。カバンが重いのか、自分の横に置いてしまっている以上、彼女が腰を上げて帰ろうというまでかかるだろう。
あきらめてカバンを自分も横に置く。ドスン、という音がしたのにねこはひるむこともなく、猫じゃらしを追いかけ続ける。楽しそうだ。
彼女の柔らかい瞳は細められ、穏やかな笑みをたたえている。太陽の光が、彼女の髪に反射して揺れる。やわらかい頬が、緩み切っている。
ねこの声に、思わず見とれてしまっていたと気づき、とっさに目をそらす。目に入る桜たち。可憐に舞う白い花。
「ん、どうしたの、桜見ちゃって」
ロマンチスムにでも目覚めましたかー、とにやにやとした声がしたので、思わずむっとなって振り返る。こちらを見やりながら猫をじゃらすのだから器用なものだ。
「ふざけんな、大体お前が―」
言葉が切れる。今、俺、何と言おうとしてた?
彼女は不思議そうに首をかしげている。猫をじゃらす手が自然と止まっていて、猫がちょこんと座りこんでこちらを見ていた。真ん丸な茶の瞳二対に見つめられて、しどろもどろになりながら答えをひねり出す。
「お前が」
「お前が?」
「…お前が猫をじゃらしだして、暇だったから」
あ、そっか。ごめんね、そう謝る彼女は、絶対に俺の本心なんか知らないはずだ。知らない、はずなんだ。
お前が、あまりに綺麗だったから、見とれていた、なんて。
暴れる心臓を必死になだめている俺の視界に、ふさふさとした何かがよぎったのに気づく。そちらに目をやると、
「猫じゃらし…」
まるで、俺がじゃらされているような。
「私が猫をじゃらして、暇だったんでしょ?じゃあじゃらしてあげる」
いたずらを思いついた小悪魔の笑みでこちらに猫じゃらしを揺らして見せる彼女の瞳は、やはり楽しげに細められている。何か文句を言い返してやろうと思ったけど、その瞳を見ているとなぜかそんな気もうせてしまう。
(ああ…情けねえ、俺)
先ほどまでねこに向けられていた笑顔が、こちらに向いているのがうれしい、なんて思ってしまう。
どうしようかと頭を悩ませる俺を見つめる猫の瞳は、いたずら気に細められていた。
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高空 - 夏蜜柑さん» ありがとうございます!少しずつの更新になりますが暖かく見守って頂ければ幸いです。 (2018年3月4日 14時) (レス) id: afb8e92214 (このIDを非表示/違反報告)
夏蜜柑(プロフ) - はじめまして!好きです!言葉の選び方がとっても綺麗でもう最高です…!更新楽しみにしてます!! (2018年2月26日 1時) (レス) id: ec14c5022d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:高空 | 作成日時:2018年2月25日 9時