四冊目「本の森の会合」 ページ5
図書館を本の森、とたとえたのは、うちの同級生だった。
うっそうとしていて、入りづらいと、彼は本嫌いの理由を言いつくろっていた。正直彼の本嫌いはそれと関係ないと思うが、図書館が本の森であることは確かだ、と私は思う。
遠くに同級生たちのはしゃぐ声は小鳥のさえずる声に。紙とインクのにおいは木と土のにおい。窓から差し込むやわらかい日光は木漏れ日に当てはめていけば、図書館は森に早変わりだ。
本の森、か。
本嫌いにしては詩的にたとえたものだな、と私は感じる。彼は活字を見るだけで眠くなるというよくわからない症状を持っていた。
棚の間を進んで、今日はどの本を読もうかと考える。ファンタジーは少し読み飽きた。SFは今は読みたくない。学園ものかな……。
ふと窓の外が騒がしくなったのでそちらを見やる。サッカーは白熱しているようだ。ここからは見えないが、彼らの叫ぶ声が飛び交っている。と、
「……あ」
そちらに並べられている机といす。そのうちの一組に、見慣れた人影を認め、目を丸くした。
人影、例の詩的な男子は机に突っ伏していた。そっと足音を消して近寄ると、静かな寝息が聞こえる。
「何してんのかな、こいつ」
思わずそう漏らすと彼がうん、とうなる。起こしてしまったか、とヒヤリとしたが、寝言だったようで、それ以上何か動く様子はない。私はほっと息をついてから、今度は慎重に彼を見、そして彼が枕にしているものの存在に気がつく。
「本……これ、読んだことある」
それは私自身も読んだことのある小説だった。森に迷った少年のささやかな冒険譚で、文章が難しいが、とても面白い。主人公の少年が森に魅力を見出して行くのとシンクロして、惹かれてしまうものだった。
そこで思い出した。これを読んでいるとき、彼に本ばっかり読みやがって、と挑発されたことがあった。あの時は頭に血が上ってしまい、
『はっ、こんな本も読めないとか、信じらんない!』
と言い返した。正直言いすぎたと思うが、謝れないままだ。その本をなぜ彼が読んでいるのだろう。
「まさか、わたしに言われたことを気にして…?」
思いついて、思わずクスリ、と笑った。その真偽は今はいい。彼は今、どんな夢を見ているだろうか。案外、この物語の夢かもしれない。彼は最後まで読み切っているらしかった。
そこでふと、わたしは目的を思い出した。読む本は決めた。棚の森に引き返す足取りは軽い。
今日は、少年の夢の中の冒険譚にしよう。
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高空 - 夏蜜柑さん» ありがとうございます!少しずつの更新になりますが暖かく見守って頂ければ幸いです。 (2018年3月4日 14時) (レス) id: afb8e92214 (このIDを非表示/違反報告)
夏蜜柑(プロフ) - はじめまして!好きです!言葉の選び方がとっても綺麗でもう最高です…!更新楽しみにしてます!! (2018年2月26日 1時) (レス) id: ec14c5022d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:高空 | 作成日時:2018年2月25日 9時