一冊目「夕焼け色に染められて」 ページ1
「これ、やる」
そう言ってぶっきらぼうに言ったアイツの手の中から放られたそれは、きれいな放曲線を描いて私の手の中に収まった。
それは小さなガラス玉だった。きらきらとした粉が中に閉じ込められた、透明などこでもあるような小さなガラス玉。
あいつがものをよこすなんて珍しい。普段から、喧嘩ばかりで、いわゆる腐れ縁の二人だ。もののやり取りなんてやったこともない
そんなことを考えていたせいなのだろうか。お礼を言うために開いた口は
「なんだってあんたが私にものを?」
……思いっきり小ばかにしたようなことを言ってしまった。それに思考が回った途端、やけに心臓の音がうるさくなるのを感じる。
「なんだよ。おれがけちくさいみたいに言いやがって」
アイツが不機嫌そうに眉を顰める。そりゃそうだ。
言ってから後悔しても、ここで撤回するのは私のプライドにかけていやだ。でも、アイツが怒ったらどうしよう。せっかくアイツがものをくれたのに。
アイツがものをくれたのが、どうしようもなくうれしいことに、わたしは気づいていた。だからお礼を言わなきゃいけないのに、言い方がわからない。
どきどきと前を見れずにうつむいていると、アイツがそうだな、とつぶやく。
「とりあえず、それを空に掲げてみなって」
いわれるまま、恐る恐るとガラス玉を空に掲げた。
「きれい……」
黄昏色の空をそのままに閉じ込めた、そのガラスの中に無数にちりばめられた銀色の粉は太陽に反射して、まばゆく輝いている。そんな黄昏の星空に、思わず見とれた。
「だろ。お前には見せたかったんだ」
その声に振り向けばアイツは穏やかに笑っていた。普段見せる無邪気な笑顔でも、喧嘩の時に見せる好戦的な笑みでもない、ただただ透明なその瞳に、自分の姿を認めたとたん、頬が熱くなるのを感じた。
(……っ反則でしょ)
アイツの表情は、夕焼けに照らされ、赤く染まっている。どうか、わたしのこの表情も、同じふうにごまかせていてほしい。
表情に気づかれたくなくて、慌ててガラス球を見つめる。太陽に照らされて、赤く染まったそれは、さっきとは違うように見えた。まるで私みたい。アイツに、こんなにあっさり顔を染められてしまうなんて。
慌ててそのまま道を走りだす。慌てるようなアイツの声が聞こえるけど、構うものか。
うれしくて、泣きたくて、苦しくて。
あいつのせいでかき乱された感情に負け、頬を横に流れた涙が、きらりと反射した。
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高空 - 夏蜜柑さん» ありがとうございます!少しずつの更新になりますが暖かく見守って頂ければ幸いです。 (2018年3月4日 14時) (レス) id: afb8e92214 (このIDを非表示/違反報告)
夏蜜柑(プロフ) - はじめまして!好きです!言葉の選び方がとっても綺麗でもう最高です…!更新楽しみにしてます!! (2018年2月26日 1時) (レス) id: ec14c5022d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:高空 | 作成日時:2018年2月25日 9時