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寂しさを愛して後悔に転ずる ページ40

重たい扉を押し開け、私は照明のスイッチを入れた。暖色の明かりを灯した店内に落ち着きを感じる。張り詰めていた気が抜けていくように脱力し、私は近くにあったボックス席のソファに腰を下ろした。

「…告白、か。」

背もたれに寄り掛かり、ゆっくりと天井を見上げた。一面に広がる黒色が目に映る。

一番最初に現れたのは、そりゃそうだよな、という平凡な感想だった。山本さんは、言葉に言い表せないくらい素敵な人物である。それはこうして出会う前から、動画やメディアを見ている時点でとっくに分かっていた。だから、私は画面越しの彼を推していた。その推すという行為に、辛いことは決して無かった。同じ世界には住んでいるけれど、感覚としては異世界の人物に恋をしているようなものだったから。

推しと出会うなんて、夢小説の世界でしか有り得ないことだと思っていた。そんな世界線に自分が降り立つことになるなんて、言わずもがな想像すらしていなかった。しかし、こうして彼と出会ってしまった。そして彼の一面に触れたことで、その素敵な人間性をより深く、身近に感じられるようになった。そうなれば、私が彼に恋をするのは時間の問題であった。

決して手の届かない存在だと言うことは、ずっと前から分かっているはずだった。

なのに。喉が腫れ上がって、その圧迫感から再び呼吸が出来なくなる。目の奥がじわりと温まり、ぼんやりと見つめていた天井がみるみる歪んでいく。

一度涙が零れ落ちると、その潤いは行き先を見つけたかのように溢れ出して来た。丁寧にメイクを施された肌色の頬を拭うように、透明色の涙が伝う。

感情の糸が何重にも絡み合い、私は思わず顔を手で覆った。肩が小刻みに震えて、絞り出されたような嗚咽に近い声が出る。静かな部屋に私の声だけが重々しく響き渡る。

彼は、告白を受けるのだろうか。あの時、おめでとうなんて言わなければ良かったかな。空気を無視して、想いを伝えてしまえば良かったかな。そんなことをしたら、きっと築き上げた全ての関係を壊してしまうだろう。折角掴んだこの幸せを、一夜にして失ってしまうことが何より怖いかもしれない。

その時。重々しく扉が開く音がして。

「……Aさん。」

自分の音だけが響く空間に、そっと私の名前を呼ぶ声が聞こえて来た。涙とは違う、優しい温もりを持つ響きが耳に届く。ぐしゃぐしゃの顔で、私は振り返った。

「こんばんは。」

そこには、さっきと同じ表情をした、彼の姿があった。

その温もりは、きっと→←孤独を恐れて寂しさを愛する



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萌衣(プロフ) - akiakiさん» 初めまして、コメントありがとうございます…!ニコラシカは「決意」「覚悟を決めて」というカクテル言葉を持っており、その後の展開を示唆するような存在になっていました。そう言って頂けてとても嬉しいです(;;)良ければ続編もよろしくお願い致します…! (2020年12月4日 7時) (レス) id: ba6d0efe33 (このIDを非表示/違反報告)
akiaki(プロフ) - 少し遅れましたが、心打たれたので感想を書かせていただきますね。“決意”ですか。良いですねぇ (2020年12月3日 23時) (レス) id: 9ea9a75c9d (このIDを非表示/違反報告)
萌衣(プロフ) - みるくてぃーさん» 初めまして、コメントありがとうございます…!実は主人公が選ぶカクテルは、全て思いや感情とリンクするように描いていました。それに気付いて下さって、更に調べて下さるなんて、嬉しい限りです(;;)長くなりますが、良ければ完結までよろしくお願い致します…! (2020年11月14日 8時) (レス) id: ba6d0efe33 (このIDを非表示/違反報告)
みるくてぃー(プロフ) - コメント失礼します!カクテル言葉、存在を知ってはいましたが、ひとつずつの意味を知るのは初めてで調べることも楽しかったです(*^^*)また更新楽しみにしています! (2020年11月13日 22時) (レス) id: c5c88d3947 (このIDを非表示/違反報告)
萌衣(プロフ) - たーさん» 初めまして、コメントありがとうございます…!この作品が毎日の楽しみの一つになれているなんて、とっても嬉しいです(;;)素敵なお言葉、本当にありがとうございます。長くなりますが、良ければ完結まで見守って頂けたら嬉しいです…! (2020年11月10日 23時) (レス) id: cd279427a1 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:萌衣 | 作者ホームページ:   
作成日時:2020年10月21日 16時

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