トワイライトメモリー

獣と化す王女 ページ7

「これはいったい…」




いつもの綺麗な黄昏色の空は

雨雲に覆われたように暗く。黒く。

木々は痩せ細り、枯れ、

流れる空気でさえ、いつもと違う。




そして、何よりワタシが目を疑ったのが、

ついさっきまでいつもとなにひとつ変わらず

笑い合っていた民の姿。


どんどんおぞましい異形へと変化していく。


一言で表すなら




『魔物』




向こうから黒い煙の様なものが…



「ミドナ様お逃げください!!」



状況が分からずただそれを見ていたワタシは、

一人の民の声で我に返った。



「どうなってるんだ…!?

　何があったんだよ!!?」


「ザントです。魔力を使って…」


「な…ザント…!!」



「早くお逃げ下さい!

　あの煙に巻き込まれると、

　あのような姿になってしまいます…!!」



「あぁ、分かっ……」

待て。

ワタシは王女だ。


民がこんなになっているのに、逃げる…？


笑わせるな。


こんな中、王女のワタシが今やるべき事は、



「ザントは今何処にいる」



「…まさか対抗なさるおつもりで…？

　危険すぎます!

　奴は影の結晶石を持っています。

　だから早く逃げ…は、やｸ、ﾊﾔｸ、ﾆｹﾞﾃ」


「ぉ、おい!!大丈夫かっ!?」



その民は “魔物„ へと姿を変えた。




煙もまだそんなに近くに来ていないのに、


いったい何故…




「全く…余計な事をぬかしおって…」


ワタシは目の前の民を魔物に変えた張本人へ

振り返り、睨む。


「一体どういうつもりだ。ザント」


「どういうもなにも、私は民に祝福を与えて

　やったのだ。自由を。」


「“ 祝福 „？どこがだ!!

　早くワタシの民を元に戻せ!」


「“ ワタシの民 „？

　貴女にその様に言う権利があると？」


「ワタシは王女だぞ!」


「この世界の王は私だ。

　お前は王女ではない。」


今ザントに何を言ってもダメなのは

何となく分かっていた。ならば。


「………。」


「どうした。私に勝負を挑もうと…？」

一族の持つ魔力に他の者が叶う訳がない。


「ほう、面白い…。だが」


ワタシは魔力で防御をしていながらも、

突き飛ばされた。


「そんな事したって無駄だ。
　
　私には誰も敵わぬ。」


無駄。今の一撃だけでも分かった。

力の差が大きすぎる。何処でこんな力を…


「お前にその美しさは似合わぬ」


ザントがこちらへ歩み寄る。

後ずさり。私は彼を恐れた。



「獣になった記念にプレゼントだ」

そう言って石の塊を置いていった。


ワタシは自分の世界から逃げた。

空が告げる予兆→←悲劇の始まりは

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す