la fraise【O】1. ページ16
私が働いているケーキ屋には週に一度、土曜日の午前に必ずいらっしゃるお客様がいて。
じいーっとガラスのショーケースを見る目は鋭い光を放っていて、口元は少し尖っている。
真剣にケーキを選んでくれている姿は嬉しいんだけど、真剣すぎて少し笑ってしまいそうになる。
「……これとこれ、1個ずつください」
「はい」
これ、のところで指さされたケーキ二つをトングでとる。
今日はガトーショコラとモンブランね、なるほど。
この間はシュークリームとチーズスフレだったな確か。
いちいちお客さんの注文を覚えているなんて自分でも少し気持ち悪いと思う。
だけどこの常連さんは何か独特な雰囲気があってよく記憶に残るんだよね。
「持ち運び時間はどのくらいですか？」
「あ、すぐそこだから」
形式的な、もはや確認のためだけの台詞を口にすると彼は少しだけおかしそうに笑う。
「いつも聞くよね、それ」
「え？」
いつもなら笑って終わりなのに、笑いながら彼が口を開いたことに驚いて手が止まる。
危うくケーキを落とすところだったんですけど、ねえ。
「え？あ、ごめん」
「あの」
「てっきり覚えられてっかと思って」
何と答えたらいいのか戸惑っている間に、彼は勝手に結論付けて話を終わらせてしまって。
ちょっとだけ寂しそうな表情に慌てて反論する。
「いえ！お、覚えてますよ！いつも土曜日にいらっしゃいますよね？」
「お？」
なーんだよかった、と言って彼はヘラッとした笑顔になる。
「いつも2つ買っていかれますよね」
「うん、そお。だってひとつに選べねぇんだもん」
「え……もしかして両方お一人で食べてらっしゃるんですか？」
てっきり恋人とかと食べてるのかと思ったら。
まさか二つとも食べてるとは思わなくて、失礼だとは思いながらも彼をガン見してしまう。
「……痩せてる」
「んふ、そう頑張ってっから」
なんで？え？
週に二つもケーキ食べてたら普通は太るよね？
漏れ出た私の心の声にもよくわからない自慢を返されて。
よくわからない、摑みどころのないお客様だ。
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紫苑(プロフ) - りえさん» リクエストありがとうございます。『ハラグロなふたり』の続きですね。鋭意創作中ですので今しばらくお待ちください！ (2021年1月4日 13時) (
レス) id: 217cb95def (このIDを非表示/違反報告)
紫苑(プロフ) - すずさん» コメントありがとうございます。赤菊の君の人気ぶりにびっくりしてました！喜んでいただけて嬉しいです。 (2021年1月4日 13時) (レス) id: 217cb95def (このIDを非表示/違反報告)
紫苑(プロフ) - ゆっこさん» リクエストありがとうございます。潤くん視点のお話書かせていただきました！ (2021年1月4日 13時) (レス) id: 217cb95def (このIDを非表示/違反報告)
紫苑(プロフ) - mihoさん» リクエストありがとうございます。Lapis lazuliの続きですね！承知しました。ただいま創作中ですのでしばしお待ちください！ (2021年1月4日 13時) (レス) id: 217cb95def (このIDを非表示/違反報告)
紫苑(プロフ) - るきさん» リクエストありがとうございます。『赤菊』の翔さんサイドを書かせていただきました！大野さんのお話はもうしばらくお待ちくださいね。 (2021年1月4日 12時) (レス) id: 217cb95def (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：紫苑
| 作成日時：2017年1月23日 20時
