あら、ご機嫌よう【薬屋のひとりごと】 (ページ5)

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『媚薬作り？猫猫が？』
「そうそう！壬氏さまからの命令なんだって！」

壬氏さまか……
天女のような顔(かんばせ)に、蜂蜜のような甘い声。
彼は妃や宦官、老若男女問わず魅了するような魅力を持っている。

それにしても猫猫に媚薬を作らせるとは。玉葉さまに渡すのでも難色を示したいものだが、壬氏さまが持ち込んだ案件。きっと他の妃に渡すものだろう。
壬氏さまは特定した誰かに入れ込まない面を持つが、それに他所の侍女を巻き込まないでほしいものだ。

猫猫が媚薬を作っている場所は翡翠宮の厨房らしく、先に覗いてきた三人娘曰く覗いたら紅娘さまに叱られたそうだ。
ふむふむ、と話を聞き韋颯はとりあえずお茶と侍女用の煎餅を持って猫猫のいる厨房へ向かった。

『猫猫、お疲れ様。少しお茶にしましょう？』
「韋颯さんですよね。ありがとうございます」

猫猫は煎餅が好きだったのか真っ先に煎餅に手を伸ばす。
ばり、ぼりと気持ちのいい音が聞こえる中、韋颯は言った。

『ねぇ猫猫。媚薬を作ってるって聞いたんだけど……それって』
「ええ、媚薬ではなく、それに準ずるものを作っております」
『へぇ……』

猫猫は切った乾燥果実(ドライフルーツ)を茶色いドロっとしたものに浸ける。

『これの名前は？なんと言うの？』
「巧克力(チョコレート)、と申します。刺激が強く、また素材に強壮作用のあるものを使っているため媚薬に準ずる能力を持つのです」
『甘い香りがすると思ったらそういうことなのね。教えてくれてありがとう……じゃあ紅娘さまが睨んでいるから私はこれで』

ささっと茶器と煎餅の入っていた器を片付け、厨房をあとにする。
あんなに煎餅が好きならば今度からは甘い菓子ではなく煎餅をたくさん持たせようか。

ちなみに紅娘さまに睨まれているには本当だ。だが猫猫の息抜きをさせていたと分かれば複雑そうな表情をしながらも何も言わなかった。

三人娘は仕事を済ませたようで猫猫の方へ行こうかと言っていた。確かに歳の近い三人と猫猫で話すのは猫猫の人間関係を広げる良い経験になるのかもしれない。

そろそろ玉袁からの戌西州についての便りが来る頃であろうか。
玉葉さまが茶会を開いたりして様々な妃から得た情報を玉葉さまは手紙に書いて送っている。その反対もまた然りなのだ。

「猫猫！猫猫はどこ！！」

紅娘さまが猫猫を呼んでいる。何かしでかしたのだろうか。