【○魂】逃げた子兎、支配する兎 5【神威】

いずれの取捨選択 ページ33

陽(ひかり)の差す、かつての桃源郷。


“私達で新しい吉原を、私達の子供に見せても恥ずかしくない、立派な街を作っていこう”

鳳仙の呪縛から開放された吉原は、ここに残った日輪と遊女達が一丸となり 生まれ変わろうとしていた。

具体的には遊郭がなくなって、
ヘ○スやソー○、はたまたキャバクラお触りパブetc…が人気だそうで。

「全然子供に恥ずかしいだろーが！
何？って聞かれても答えられねーよ！」

どこかの眼鏡のそんなツッコミは野暮である。



あの飛脚の青年と禿の少女も、妓楼での大騒動に殆どの人員が回されたため
手薄になった警備の間を縫って、無事逃げおおせていた。

Aはそんな二人から、約束通り
“笑顔の報酬”を受け取って。

何度も何度も頭を下げてお礼を言う青年と、
何の翳りもない、本来の表情を取り戻した少女。
固く繋がれていたその手と手は、これからも
決して解けることはないのだろう。



今日も、雲一つない快晴だ。
この太陽は吉原にも歌舞伎町にも等しく降り注ぎ
皆が晴れやかな顔をして、それを存分に浴びる一方
現在万事屋では。


「よし、あのイカレポンチ兄貴と過ごした日々とやらを全部吐け、A」

銀時による取調べモドキが行われていた。


なんとなく空気を読んで、銀時の目の前にちょこんと正座したAがはいっと手を上げる。

「我はカツ丼をしょもーするアル」

「却下。んなモンウチにはねーよ、
出せんのはせいぜい……ほら」

銀時の視線の先、テーブルに置かれた丼ぶり。

「はい、代わりの卵かけご飯だよ」

醤油と箸も並べ配膳し終えた新八も、銀時の横に座る。

「これで我慢しろ。
さて、じゃあ話してもらおうか」

そして腕組みをする銀時が、改めてAを促した。


そもそも、あっさりと引いていった神威の気まぐれがなかったら、
今頃Aは連れ去られてここにいなかったかもしれないのだ。

というか銀時には気まぐれよりも、何か企んでいるようにしか思えなかった。

たまにAから溢れ聞いたエピソードと、星海坊主が語った人物像。

さてどんなもんだと思っちゃいたが、Aを腕に抱えて当たり前に笑う、神威を見れば

―――コイツは敵だ。
そう何より強く銀時の頭に叩き込まれた。

それは、相手が宇宙海賊春雨とかいう大それたモンだっていう立場的にも
そして、Aを巡る男としても。

それならよく、まずは敵のことを知れっていうじゃねェかと。

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