【○魂】逃げた子兎、支配する兎 5【神威】

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「女を繋ぎ止めるため足まで奪ったか」
神威が呟いた。


自由を殺す 薄暗い閉じた牢獄。
ここから一緒に逃げようと、手を引く晴太に
日輪は応えなかった。
否、応えられなかった。

鳳仙によって、日輪は足の健を断たれていたのだ。
もう一人で歩くことはおろか、立つことさえ困難で。


執着に塗れた目で鳳仙は嗤う。

「もうどこにも行けはしない
わしの元から飛び立つことなどできはせぬのだ」

その扉は開いていても、折れた翼は羽ばたけず
その現実が絶望を深める。
それでいい、そうやって一生飼い殺すのだと。


随分とお熱ですね、その様子を見て口を開いた神威が続ける。

「遊女を傷物にし、商品としての価値を奪っても尚側に置いておくとは
旦那 アンタにとってあの女
道具としてではなく、一人の女として必要なものらしいな」


鳳仙はそれを一笑に付すと、その逆だと言った。
日輪(太陽)の全てを壊して全てを手に入れる。
この魂の渇きを癒すため、我が下に沈めてみせようと。

そして鳳仙も続けた。

「人のことを言えるのか、神威。
その小娘……随分大事そうに囲っているではないか」

その目線は、神威の腕の中のAへ。

「強さを求めることしか追わぬお前が……否、
違うな。
童の頃から始まり、幾度と勝負を挑んできたあの時も
そして今も お前はいつも同じ目をしていた。

強さを求めることさえ一つの理由にすぎぬ
先行く道の果てが、その小娘だとでもいうのか」


そうだ、春雨で今の地位まで上り詰めたのも
己が最強を求めるのも
全て唯一の存在に起因する。

「俺はアンタと違って素直に認めるよ
俺にとってAは、一人の女として必要だ」


ただ一人の女に執着し、支配する獣。
向き合った二人は、似たように嗤った。


◇


閉じた瞼の隙間から陽(ひかり)が差し込む。
その眩しさに眉を寄せ、たゆたう意識を手繰り寄せるようにゆっくりと目を開けた。

「あ。起きた？A」

そうすると頭上にできる影。
番傘をさして覗き込む神威、それが目覚めたAが一番に映した光景だった。


おはよ、首痛くない？
そう聞かれて、はっとする。

そうだ、Aは恐らく気絶させられていたのだと。
銀時は、それに晴太も
辺りを見回す。



神威は右手に傘を持ち、左腕でAを抱え瓦屋根の上に立っている状況で。

その腕の中、安全な日陰から視線を逃せば
直射する輝きに起き抜けの頭と目が眩む。


目を細めて、もう一度見上げた。

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