【○魂】逃げた子兎、支配する兎 5【神威】

22 ページ23

改めて見れば、全身傷がつき所々自らが流した血に塗れる銀時に対し
鳳仙は幾ばく余裕があるようだった。

そして鳳仙は手に持った番傘を、真上から銀時目掛け振り落とす。
轟音とぶち当たり真っ二つに破壊された掛通路、それがこの一撃の威力を物語る。

「……！」

前に乗り出しかけたAの身体は、がっちりと巻き付いた神威の腕により動きを阻まれた。

「銀さん！」

甲高い子供の声が響く。
自分達から少し離れた場所で、戦況を見守る晴太の存在にAは気づいた。

晴太も、悪党だと認識している神威と共にいるAを驚いたように見る。


重なっていた視線は、バッと
次の瞬間には同じ方向へ注がれた。

沸き立つ砂煙の中、垣間見えた立ち姿。
銀時は、両手に持った刀と木刀を交差させ。


「ほう
まだわしの一撃を止める気力が残っていたか」

銀時の腕が、足がガクガクと揺れて脂汗が湧き出る。
たった一撃、たった一太刀で身体中からそんな気力も体力も全て削ぎ落とされた気分だった。


「スゴイスゴイ。
戻って来るまでに終わっちゃうかなって心配してたんだけど、
あの夜王相手にまだ保ってるなんて
コイツは面白くなってきた」

唯一この場にそぐわない軽快な口調。

「……面白くなんて、ちっともないアル……！」

「えー？あんなに見たがってただろ。
ほら、ちゃんと見ろよA。
二人であのお兄さんを応援でもしてあげようか」

それが発せられるのは、神威だけ。


「野郎のむさい応援なんざ要らねーよ、
そこの多少貧相な可愛コちゃんの一つで間に合ってらァ」

それに
まだ、どころか天寿を全うしてやるよと無理やり形どった笑みで銀時が言う。

「貴様の天寿などとうに尽きておるわ
この夜王に楯突いた時からな」

ふん、そう鼻で嗤った鳳仙、その筋肉がより盛り上がり血管は浮き出て、
銀時にかかる重量は更に力を増す。

踏みしめる地面が沈み込み、身体が鳴らす音で訴える、もう限界を超えていると。


「グっ、離してヨ神威、銀ちゃんが……！」

「ダメだよ。そんな怪我でどうするつもり？
大人しくお兄ちゃんの腕の中で安静にしてなさい」

抜け出そうとAがもがけば、増々巻き付く腕の力は強くなる。


神威は気づいていた。
あの銀髪の男が、Aを地球に引き止める一番の後残りとなり、居場所となり
そして大事なヒトになる。

神威とA、歪な兄妹で完結していた狭い世界
そこにヒビを入れてこじ開けようとするのは、コイツだ。

23→←21

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す