【○魂】逃げた子兎、支配する兎 5【神威】

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それを肯定ととった神威は、感嘆するように多少声を弾ませる。

「ヘぇ！驚いたな、
教えたこともないのに。やっぱりお前も夜兎なんだネ」

それでいてにこにこと笑う。

「あ、それでさA
あっちで今面白い見せ物が始まりそうなとこだから
一緒に観賞しようと思って迎えに来たんだよね」

「見せ物……？」

おいで、と神威に手を差し出されれば、
迷い無く掴むはずだった右手はもう動かない。


「まずはその怪我の手当が先決だ、
だから部下の不始末による取りこぼしは
ちゃっちゃと処理しとかないとね」

それを、怪我のせいだと解釈する神威の視線は
そう言って最初に一見しただけで、後は見向きもしなかった新八へ。

自分以外との繫がりは、いらない。
その顔から笑顔が消え、一言。


「消えろ」




Aは、なりふり構わず後ろから神威に抱きついた。


「A？」

新八へ伸ばしかけた手を止めて、神威が顔だけ振り返る。


Aは嘘だと思いたかった
―――今、神威が新八をいとも簡単に殺そうとした、なんて。

でも今日、その嘘のようなことは既に幾つも起こっている。


「な……」

散々阿伏兎に受けた攻撃の影響で、ろくに反応もできず新八は硬直した。
その額には冷汗が流れる。

Aの行動がなかったなら、その腹は貫かれ、大穴が空いていたことだろう。



やめて、も新八が大事なんだ、とも
それを言うのは、阿伏兎の時以上に悪手な予感がして。

「……かむいっ
面白いの、見に行くんデショ。私早く行きたいアル」

Aは待ちきれない幼子のように、神威にねだる。

神威の関心を、こちらだけに向かせるため、
新八に手を出させないために。


「ん、そうだね。
待ってて、今すぐ終わるから」

「……っ、ヤーヨ待てないアル！
怪我した腕もめっちゃ痛いネ、手当が優先っていったアルよ」

掴み損ねた手の代わりとばかりに、巻き付けた無事な片腕の力を強めた。



「じゃあ、A
可愛いオネダリの仕方は教えたろ？」

新八が見ているその前で。
Aは抱きついた身体をそっと離す。

それから間髪入れず必死に背伸びをして、振り向いて少ししゃがんだ神威へ

口付けを、一つ。

「……オネガイ、神威」

教えられた通り、
望まれたままに。

新八が息を呑むのが、かすかに聞こえた。


「……うん、上手にできたね。
いいよ、考えてみればいつでも殺れるんだし
今割く時間が勿体無いや」

神威はAの左手を改めて握ると、行くよと歩き出す。

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