第186話 ページ47
僕の呟きに膝丸は冷や汗を滲ませ、髭切は楽しそうに目を山なりに細めている。
立ち上がって臨戦態勢を取り戻した鬼を前に、僕は瞬時に懐から札を取り出して投げつけてから印を結び、呪文を唱えた。
すると鬼の周囲を正方形の光の壁が囲い、身動きが取れなくなった鬼が中で暴れ出す。
中から出てこないように、結んだ印をそのままにしながら警戒する刀剣男士たちを見回した。
「あれと同じ化け物が以前討伐されたということは、このままいけばあいつも倒せると思う。けど、それではきっと取り込まれた三人も死んでしまう。
だから僕があいつの霊力を奪い取って、術を無効化する。その間、みんなにはあれの足止めをしてもらいたい。
普通の討伐とは違うから、かなり危険な任務になるけど…お願いします」
ただあのまま討伐するだけなら、みんなの負担はもっと少ない。けれど僕は、難しく危険な手段を取らせてしまう。
こんなの、審神者として相応しいのだろうか。
話している間に、ビシリと結界にひびが入る。
激しく暴れ回る鬼の捕獲は、そう長く持たない。
…そういえば、術使ってるのに苦しくならないな…
不安に思いながら三日月たちの顔を覗き込んだ、その時…
彼らは、そんな僕に構わず一歩を踏み出した。
「久しぶりに派手に暴れようぜ、伽羅！」
「…俺一人で十分だ」
「抜かせ、誉を取るべきは兄者だ」
「うーん…首を落とせないのは物足りないけど、まぁ遊んであげようか」
「兄弟との馬糞合戦よりはマシな任務だな」
「お前ら馬当番の時そんな事やってたの…」
久しぶりの戦いに胸躍らせる太鼓鐘に、大倶利伽羅がそっけなく返す。それに膝丸が不敵な笑みを浮かべ、髭切は物足りなさそうに眉を下げて笑った。
そして骨喰の不穏な発言に、加州がげんなりと肩を落とす。
そんな彼らに呆然としていると、いつもの調子で笑う長義と三日月が、緩くこちらを振り向いた。
「何を躊躇っているのか知らないが、総大将の君が下を向くんじゃない」
「うむ。我らを率いる主が、"お願い"などとへりくだるものではないぞ？」
彼らの言葉に胸がぎゅうと締まり、途端に目頭が熱を帯びる。
そっか…僕、主になれたんだ。
「君は僕らの主ではないけれど、今は君に従えって言われてるからね」
「だから遠慮せず、主命を下すといい」
こちらを振り向いた髭切と膝丸の言葉に、僕は熱を飲み込んで、力強く頷いた。
「臨時討伐隊に命ずる！
標的の霊力を奪取しきるまで、足止めせよ！」
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作者名：寒蘭 | 作成日時：2023年12月2日 0時
