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第184話 ページ45

叩き付けた拍子に壁を破壊した鬼は、僕を握りしめたまま廊下を駆けだした。
こちらに手を伸ばし、僕の名を呼ぶ三日月が視界の端に映る。
けれどそれを気にする暇もないまま、僕は必死に体を掴む鬼の手から抜け出そうともがいた。


「くっ…そ、このやろ…!」


最初はこの鬼、遡行軍の大太刀くらいの大きさだと思っていたのに、こうしてみると想像以上に大きい。
だって、片手で僕の胴がすっぽり握られている。
おまけに馬鹿力で、どれだけ踏ん張ってもビクともしない。
叩きつけられた背中が痛むせいもあるだろうけど…


「どこ連れてく気だよこいつ…!」


突然掴まれたかと思えば、そのままどこかに一目散に駆けていく鬼。
あの時そばには元帥や長義もいたのに、どうしてか僕だけを標的にしていた。
…取り込まれた睡蓮の意識が、若干残っているのだろうか。

そうだとしたら最悪だ、と内心げっそりしていると、突然狭い廊下から開けた場所に出た。
そこは…吹き抜けになった正面ホールの四階。
嫌な予感がして、まさかと背筋が粟立つ。
こういう時の予感は的中する…そのことに絶望して、僕は必死に鬼の手の中から脱出を試みる。
けれどやっぱりビクともしなくて…そしてそのまま、鬼は四階から一階のホールへと身を投げた。

こいつはこのくらいの高さから落ちても平気かもしれないけど…
下敷きにされた僕は、確実に死ぬ──!

一階の大理石の床が迫って来る。
スローモーションの映像みたいにゆっくりと進んでいく世界の中に、誰の姿もないことに気づいて「避難、間に合ったんだ」なんて他人事のように考えた。

けれど…その思考は、途端に窮屈さから開放されたことで途切れる。
突然のことに視線を巡らすと、鬼の腕が半分ほど切り離され、だらんと垂れ下がっているのが見えた。
どういうことかと混乱する間にも、地上との距離が縮まっていく。

だめだ、落ちる──!!





「──伽羅!」


どこかで聞いたことのある声が響いたとほぼ同時に、急降下していた体がドンと何かに受け止められる。
先ほど打ち付けられた背中が痛むけど、床に叩きつけられたような衝撃ではなく、不思議に思ってそっと目を開けた。

するとそこには──いつの日か見た、金糸雀(かなりあ)色の龍を思い出させる瞳が、こちらを覗き込んでいた。


「っは…え…大倶利、伽羅…?」

「…何をしているんだ、あんた」


呆れたように眉をひそめるその姿は、紛れもない大倶利伽羅だった。

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作者名:寒蘭 | 作成日時:2023年12月2日 0時

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