第143話 神の傍観�� ページ4
信濃から刀を受け取ったAは、着ていたジャケットを脱ぐと、一期一振に持っているよう頼んでから庭に歩み出た。
「信濃。もし痛かったり苦しかったり、異変があったらすぐに言ってね。
あと危ないから、終わるまでこっちに来ないように」
「う、うん…でも、どうするの？」
縁側の下に置いてあったサンダルをつっかけて、細かい砂利が
「恐らくだけどこれは、解呪の術でどうにかなるものじゃない。ならば、方法は一つ」
十メートルほど離れたところで立ち止まると、Aは信濃たちの方を振り向いた。
そして左手で持った刀を胸の前に突き出し、右手で柄を握る。
何を始めるのかと不安そうに彼を見つめていた信濃は、びゅうっと突如吹き荒れた強い風に、咄嗟に腕で顔を覆った。
しかし一向に収まる気配のない風に違和感を覚え、そっと腕の隙間から周囲を見回すと、そこにあった光景に言葉を失う。
「な…なんで…どうして…！」
──彼の視線の先では、荒れ狂うつむじ風の中心で刀をゆっくり抜いていく、Aの姿があった。
凄まじい音を鳴らしながら、Aの周囲を旋回する風は鋭いかまいたちとなり、彼の肌に無数の傷を増やしていく。
刀身の姿があらわになればなるほど勢いを増すつむじ風に周囲の砂利が巻き上がり、今度は雷撃が混ざり始めた。
風に紛れてバリバリと鳴り響く雷撃は、信濃藤四郎を解放しようとするAを容赦なく貫いて、焦げた衣服が煙を上げる。
すると、突然本丸内に響いた轟音に気づき、刀剣男士たちが何事かと慌てて集まり始めた。
「おい、どういうことだ！何が起こっている!?」
血相を変えて駆けてきた長義に、青い顔をした信濃は肩を大きく震わせた。
「あ…ご、ごめんなさ…俺の、俺のせいであの人が…！」
「なんということだ…！雛、雛!!」
「待て、三日月！今近づいたらお前まで…！」
「雛を見捨てろと言うのか!?」
長義に続いてやって来ると、三日月は気が動転したまま庭へと飛び出す。
それを一緒に来ていた国広と長谷部が止めると、普段からは考えられないほど鋭い声を張り上げた三日月。
初代が消えた時でさえ冷静さを欠かなかった彼が初めて見せた焦燥に、周囲が驚いて硬直する。
その時…途端に一層強い風が吹いたかと思うと、荒れていた風が霧散した。
だが、それに代わってAの眼前に、巨大な二体の龍が姿を現した。
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作者名：寒蘭 | 作成日時：2023年12月2日 0時
