第166話 ページ27
どうするかなーと思っていると、しかし、と言葉を続けた極長谷部が澪ちゃんと長義の間に割り入った。
「しかし、緊急事態であることは事実だ。主にはあとで俺からよく聞かせておくから、この場は収めてくれ」
真剣な極長谷部の言葉に息を飲んだ長義は、とても深い息を吐き出してから了承した。
助けてくれた長谷部に礼を言うと、澪ちゃんは素早くこちらに戻り、僕の両肩をがっちりと掴み込む。
何事かと瞬いていれば、小面の動かない表情のまま顔を近づけると、彼女は悲痛そうな声を絞り出した。
「時雨くん、あのね、落ち着いて聞いてね。
椿さんが…
──椿さんが、政府への反逆の罪を擦り付けられて、捕まっちゃったんだよぉお！」
「…はっ…………はぁあぁああぁあああ!?」
予想だにしなかった言葉に思わず大声を上げてしまったけれど、それには長義の声も重なった。
「椿さんが逮捕!?そんな馬鹿な…！」
「馬鹿だよ、本当にあの人たち馬鹿！椿さんね、順調に政府の人間と遡行軍の関係を示す情報を集めてたんだけど、あと一歩ってところで睡蓮にバレちゃって…
それでアイツ、椿さんが集めた情報取り上げて全部書き換えて、椿さんを審神者失踪の黒幕に仕立て上げやがったの！
もうマジで絶対に許さないあのゴミカスクソジジイがァ…」
「いででででっ！ちょっ澪ちゃ、澪ちゃん！」
ドスの効いた声で僕の肩を掴む手にとんでもない力が込められ、その痛みに耐えきれず必死に澪ちゃんに訴えかける。
間もなくして気づいた彼女はぱっと手を離し「てへぺろ☆」と可愛こぶってみせるが、その握力は全く可愛くない。
おかしいな、この子根っからの純人間のはずなんだけどな。なんでこんな握力ゴリラなんだ。
心配して肩をさすってくれる三日月に礼を言って、澪ちゃんを見返す。
「でも、それでどうしてここに？その人たちを止めるなら澪ちゃんの方が適してるんじゃ…」
「そりゃ、パパに頼めばあんな奴らイチコロだけどさ！
でも、それじゃ意味ないんだって。しっかりとした、確実に奴らを潰せる証拠を持って来ないと、きっと同じことが繰り返される…それで時雨くんなら、何か証拠を掴んでるかもしれないって、椿さんが」
確かに、彼女の言う通りだ。
今、権力で睡蓮たちを退かせても、次は椿さんを遡行軍に攫わせかねない。
そうなると、完全に打つ手がなくなってしまう。
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作者名：寒蘭 | 作成日時：2023年12月2日 0時
