第158話 ページ19
周囲にふわりふわりと、柔らかな春の日和のような風が吹き抜ける。
最初は僕の霊力を拒絶されたらどうしようかと思っていたけれど、大和守は特に抵抗もせず受け入れてくれるので一安心だ。
…ただ。
「ほう…見事な霊力だな」
「近くにいるだけでこれかよ…とんでもねーな」
「温かいねぇ兼さん」
大和守の後ろから手元を覗き込む新選組刀に、集中力が削がれる。
そんなにジロジロ見られたら気が散るんですけど…と冷たい視線を送っていると、ふと何か違和感を覚えて冷めた目をやめた。
何か…なんだ?この違和感。
おかしい。新選組刀って──
──この四振りしかいなかったっけ?
ざわり、と胸に嫌な予感がよぎる。
この気持ち悪い違和感は、ずっと忘れていた重大なことの正体でもある気がして、その糸を手繰り寄せたい気持ちに苛まれた。
けれど次の瞬間、霊力の乱れを感じ取ったのか、眉をひそめた大和守に手を払われてしまった。
「あっ…ご、ごめん。集中力切れちゃって…」
「す、すまん。おれたちが見ていたからだよな?」
「いやまぁ…でももう十分霊力は補充できたし、そろそろ手入れに入ろうか。大和守、大丈夫?」
手入れ部屋の奥を振り向きながらそういうと、三日月の方も準備が完了しているらしく、頷いてくれたので大和守の様子を確認する。
すると彼は床の一点を見つめたまま、小さくぽそりと何事かを呟いた。
「……が…い…」
「…え?なんて…?」
「……僕が、最後?」
「?…うん、そうだよ。あとは君だけだ」
蚊の鳴くような声で絞り出された言葉に、確かに頷く。
すると彼はそれ以上語ることはなく、ゆっくりと手入れ部屋の中へ歩みを進めた。
なぜ、自分が最後なのか確認したのだろう…?
まさか、やっぱり僕はまだ認められてなくて、全員の手入れが終わり次第始末されるとか…!?
そんな風に不安に思いながら大和守の背を追おうとすると、背後から肩を叩かれてそちらを振り向く。
そこでは肩を叩いた張本人である長曽祢が、まるでひそひそ話をするように口元を隠していたので咄嗟に耳を寄せると、彼はどこか申し訳なさそうな声音で囁いた。
「すまんな…あいつ、ある時からずっとあんな調子なんだ。別にあんたを害したいわけではないと思うから、そこは安心してくれ」
「それならよかったけど…ある時って?」
「それは…すまん。長くなるから、手入れの後でもいいか?」
心配そうに大和守を見る長曽祢に頷いて、僕は手入れ部屋に戻った。
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作者名:寒蘭 | 作成日時:2023年12月2日 0時