第102話 ページ10
「そこでようやく、"主の身に何かがあった"と判断した刀剣男士たちが、政府…もとい、あいつの職場である討伐課第二班に通報。
初めての政府職員からの行方不明者ということもあって、さすがに大事になってな…
で、現在重要任務を抱えていない我が第一班が出動することになった、というわけだ」
「…本当にそれだけですか？」
そろそろ捜索に行かねばと立ち上がった先輩の背に、そう問いかける。
確かにこれまで本丸所属の審神者ばかりが失踪していたというのに、ここに来て突然標的が政府の職員に変わったことは、非常に由々しき事態だ。
だが、どうにもそれだけでは椿さんが動く理由としては弱い気がする。
なぜなら、中央軍部の討伐課は最前線で活躍する実力を持っており、さらにその第一班と言えば精鋭の審神者や刀剣男士を集めた、軍部最強部隊。
そんな彼女たちが動く非常案件と言えば、精々政府に遡行軍が攻めてきた時くらいのもの。
だというのに今回のことで動くというのは、何かの思惑を感じて先輩の様子を探る。
すると先輩はゆるりと肩越しにこちらを振り向くと、苦虫を噛み潰したような顔で無理やり笑みを作った。
「──あいつはな、私と一緒に審神者失踪事件の真相を探っていたんだよ」
「…!!」
「そんな奴が突然消えたんだ…偶然とは思えん」
「それは…椿さんも、危ないんじゃ」
「あぁ、そうだな。だが…もう引き返せない。
いいか、弟子。もしも私の身に何かあったら、その時は…
お前が決着をつけろ。それと、宗近のこともよろしくな」
「…ちゃんと帰ってきてくださいよ」
「へーへー」
そんな縁起でもないことを言うと、先輩はひらりと手を振って部屋から出ていった。
椿さんの後に続いた宗近の横顔は、暗く鬱屈とした空気を帯びている。
…本人の前で、自分の代わりによろしくなんて言うなよ。
本気なのか冗談なのかわからない椿さんの言葉で、心に重いものが降り積もって顔を伏せる。
すると、出ていったはずの椿さんがまたひょこりと障子の影から顔を出し、先ほどとは打って変わって明るい様子でこちらを覗いた。
「そうだ、もう一つ忘れてた。
お前、真名が決まったらしいじゃないか。
次は審神者名も考えておけよ、いい加減弟子呼びすんのも飽きた」
一方的にそれだけ言うと、先輩は今度こそ足早にこの場を去っていった。
残された僕は、依然後ろから抱きしめるままの三日月を見上げる。
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作者名：寒蘭 | 作成日時：2023年11月14日 17時
