九秋審神者、黒本丸を立て直す参 (ページ9)

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第101話ページ9

つまり、本来なら失踪した審神者を探す役目は討伐課にない。
そもそも、中央軍部は最前線で遡行軍の動向を見極め、政府と各本丸に情報を届けるという役目を担っているのだ。
それが審神者の捜索任務につくということは、ただ事ではない。

そんな僕の不安を読み取ったのか、椿さんは言いにくそうにしながら頭を掻いた。

「実はな、その行方不明になった審神者っていうのが、討伐課第二班の人間なんだよ」

「そんな…！」

その審神者というのは、どうやら政府所属にしては珍しく己の本丸を持っており、そちらを運営しながらの勤務だったらしい。
他の班員の話によると、件の審神者を最後に見たのは四日前の夜。終業後、自分の本丸に帰る彼を見た者がいた。

しかし、その翌日彼は出勤しなかった。

そもそも彼は遅刻や無断欠勤の多い問題社員だったようで、よく指導を受けたり、自分の本丸の刀剣男士に叱られる姿を見ることも多かったとのこと。

だが、その時は違った。
彼が無断欠勤をした三日前の朝、彼の本丸から「そちらに主はいるか」という連絡が入ったのである。
第二班の者は首を傾げた。それを聞きたいのはこっちの方なのに、と。
どうやら四日前の夜、軍部の施設を出た後の彼は本丸に帰っていないようだった。

本来なら、ここでまずおかしいと思うだろう。
けれど、この審神者。本丸に帰らず夜通しどこかで遊び耽り、朝帰りすることも多い人間だった。
そのため、当初は同じ班員の者も本丸の者も「またか」といった様子で呆れかえり、ひとまず本丸の者で探すことになったのだと言う。

しかし。それから二日間捜索しても、審神者が見つかることはなかった。

「あいつが行きそうな店や知り合いの家、はたまた本丸の中まで隅々探したそうだ。
だが、見つからなかった」

「…それで、どうして通報が？」

「…昨夜遅くのこと。
あいつの本丸の結界に、ゆらぎが生じた」

瞳に暗く影を落として唇を指先でなぞる先輩の言葉に、ひゅうと短い息が漏れ出た。

通常、本丸には審神者の手によって結界が張られている。
それは霊力に満ちた本丸に惹かれる怪異の侵入を拒み、遡行軍からの不意の襲撃を一時的に凌ぎ、また審神者の霊力の向上などを目的としている。

それは常に審神者の霊力と直結しており、新人はともかく、討伐課で活動するベテランの審神者の結界がゆらぐことなどほぼない。

それがゆらぐというのはつまり、審神者が命に係わる問題に晒されたことを意味するのだ。