第98話 ページ6
「
「うぇっ」
突然背後から抱き留められたかと思えば、拗ねたような低い声が耳元で木霊した。
その声は紛れもなく、三日月宗近のものだ。
「あ、あの、三日月さん？どうしたの急に
てか、うちの者って…」
「む？俺のことか」
「いいや俺のことだな」
「あーもー喧嘩しないで」
不敵に笑う先輩の三日月と、眉根を寄せるこの本丸の三日月の間に激しい火花が散る。
いやもうごちゃごちゃになるな…椿さんは自分の三日月のこと「宗近」って呼んでるし、そっちのことは宗近呼びでもいいかな？
そう提案すれば、先輩の三日月改め"宗近"は嬉しそうに満面の笑みを浮かべ、対してこちらの三日月は黒いオーラを発しながらじっとりと宗近を睨みつけている。
「雛よ。俺の方を宗近と呼んでもよいのだぞ？」
「えー…先輩が先輩の三日月宗近を宗近呼びしてるのに、僕があなたのこと宗近呼びしたら訳わかんなくなるでしょ。いいよこのままで」
というか、僕はいつまで三日月に抱きしめられてたらいいんだろう…と疑問に思っていると、すぐ後ろで「ちっ」という拙い音が聴こえた。
舌打ちしたか？
今舌打ちしたのかこの天下五剣。
信じられない出来事に目を剥いて三日月を凝視する。
が、すぐにこんなことをしている場合ではないと意識を現実に引き戻して、椿さんの方を向いた。
相変わらず、三日月は離してくれないけれど。
「そういえば、どうして椿さんたちがここに？
僕が倒れたあと、何があったんですか？」
「言っただろう、近いうち中間審査に行くと」
「言ってましたけど…早くないです？」
「当然だ。可愛い弟子が死にかけているんだからな、早朝だろうが深夜だろうが駆け付けるさ」
「どうしてそれを…あぁ、盗聴器か」
なぜ椿さんが僕の状態を知っているのかと疑念を抱くも、すぐに心当たりを見つけて一人納得する。
それに驚いたのは背後の三日月だ。
「雛よ、まさかそのことを知っていたのか？」
「え？いや、知ってたわけじゃないけど…たぶんつけられてるだろうなとは思ってたよ」
椿さんはそんな人じゃないってわかってるけど、結局僕は元遡行軍の人間。
それは変えられないし、今更その根本をどうにかしたいとは思っていない。
だからこそ、そんな僕の動向を不安視した政府からの命令で、何かしら忍ばせてあることは予想済みだった。
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作者名：寒蘭 | 作成日時：2023年11月14日 17時
