九秋審神者、黒本丸を立て直す参 (ページ48)

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第140話ページ48

「なら、どうして手入れを受けないんだ？小さな傷でも、放置すれば大変なことになるというのは、お前も知っているだろう？」

この本丸に来てから幾度となく感じている"嫌な予感"に頭を抱えていると、痺れを切らした一期が窘めるように信濃の肩に触れた。
それでも口を噤む信濃に、抱き始めていた予感は確実なものを帯びていく。

気のせいであってほしい…ただの予感で済んで欲しい…けれど、もうこれ以外に可能性が思いつかない。
僕は意を決して、頬杖をついたまま信濃に推測を投げかけた。

「信濃…もしかしてだけどさぁ…
手入れを"受けたくない"んじゃなくて、"受けられない"んじゃないの？」

「ッ！…な…なんで…」

信濃がわかりやすく目を見開いたことで、僕の脳裏で「確定演出きちゃー！」と騒ぐ友人の姿が浮かんだ。
いつも端末とにらめっこしていると思ったら、突然そう叫ぶものだから驚いていたけれど、こういう時に使うんだね。今度使い方覚えたって報告しよ。

現実逃避にしょうもないことを考えてしまったけれど、嫌な予感が的中してしまったなら目をそらしているわけにはいかない。
太鼓鐘と村雲江、そして五虎退の虎──あれはちょっと違うケースだけど──に続いて、これで四振り目だ。

恐らく…信濃も、何かしらの呪いに侵されている。

どういうことかと視線で訴える一期に緩く首を振り、湯飲みに残ったお茶をゆらゆら回しながら口を開く。

「信濃。君にどんな異変が起きていようが、関係ないよ」

「え…」

「聞いてない？僕は"この本丸を立て直すために来た"って。
みーんなに言ってることだけどね、僕はこの本丸の刀剣男士、誰一人として取り零すことは絶対にしない。
どんなに厄介な壁があったとしても、必ず全員の傷を治して、またみんなが笑えるように全力でサポートする。
だから…君が何を抱えていようが、関係ない。
それごとまとめて、全て僕が救ってみせるよ」

真っ直ぐに彼の相貌を見つめて言うと、やがてくしゃりと顔を歪めた信濃は、俯いてゆっくり息を吐きだした。
隣の一期も口元を引き結び、溢れ出そうな感情を悟られないようにしながら、信濃の背を撫でている。

…ありきたりなことを言ってしまったけど、実際に僕が彼らの救いになれることなんて、ほとんどないだろう。
だって、彼らの受けた痛みは計り知れない。
最愛の主を失い、後釜の暴挙でさらに傷を抉られたのだ。

僕みたいなちっぽけな存在が、その穴を埋められるなんて思ってない。