第139話 ページ47
客間に仕舞っていたお菓子を持って、粟田口部屋に近い居間に向かった。
この本丸にはテレビが備え付けられている居間が複数あり、その中でも和室と洋室があるのだが、こちらは和室の方だ。
先にお茶を淹れて待ってくれていた五振りに礼を言って、ちゃぶ台の上にお菓子の箱を載せる。
昨日政府用連絡ゲートを使って、たまたま政府に来ていた友人に頼んで買ってきてもらったのは、小分けされたバウムクーヘンの詰め合わせ。
その友人には、僕のゲロスーツをクリーニングに出してもらったりもしたので、少し余分にお金を渡して好きに使ってもらった。
人使いが荒いと怒られてしまったけど…スイーツに免じて許してもらえたので一安心。
そんな経緯のあるバウムクーヘンを見た短刀たちは目を輝かせて、美味しそうに頬張っている。
たくさん入っているやつだから、気に入ったならほかの兄弟にも持って行っていいよと提案すれば、彼らは喜色満面で頷いた。
他愛のない話で盛り上がり、やがてお茶を飲み終えた厚たちは、残ったバウムクーヘンを持ってさっそくほかの兄弟たちに配るべく駆けていく。
そんなに美味しかったならよかった…確かに、しっかりした甘さがありつつもくどくなくて、すごく美味しかった。
そうして厚たちの背を見送る最中、一緒についていこうとする信濃を引き留める。
「待って、信濃。僕、君ともう少しお話したいな。
厚たちとは、手入れ中に話せたけど…君の話は、まだきちんと聞けてないから」
行儀悪くちゃぶ台に頬杖をついたままそう言ってお茶を飲むと、信濃はぎくりと肩を大きく震わせ、やがて観念したように一期の隣に座った。
僕と向かい合う形で座する二振りは、どちらも緊張した面持ちで背筋を伸ばしている。
…なんか三者面談みたいだな、これ。
学校行ったことないから知らないけど、例の友人から借りた漫画で見たことあるぞ。
漫画の世界に憧れたりもしたけど、まさか僕が先生側になるとは…
この中で僕が一番年下なんだけどな、と一人脳内でツッコんで、緊張感を無くすべく眠そうに瞼をゆっくり開閉した。
「信濃はさ、僕のこと怖い？」
「…怖くない」
「じゃあ、嫌い？」
「まさか！…いち兄や、ほかの兄弟たちの事治してくれたんだもん。そんな人の事、嫌いになんてなるはずがないよ」
単純な問いに淀みなく返答する信濃に、僕はふと思考に耽る。
…そんなまさか、ねぇ？
まさか…信濃も、村雲江や五虎退のパターンじゃないだろうな？
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作者名：寒蘭 | 作成日時：2023年11月14日 17時
