第133話 ページ41
「…あー…なるほど、うん。わかった…大体理解した。
突然叩いてごめんね、長義」
凛とした長義の声のおかげで、モヤがかかったように霞んでいた頭がクリアになっていく。
別に構わないよ、と許してくれた長義に礼を言ってから、霞のように消えてしまった男と違い、確かにそこに存在したままの漆塗りの箱を見つめた。
僕は正気に戻ったというのに、どうしてか早くそれを開けなければという気持ちになって、酷く胸がざわつく。
けれど…あの男、"まだ足りない"って言ってたよな。
今の僕には、まだ開けられないのか…？
そもそも、この箱が何なのかすらわからないけど…
早鐘を打つ鼓動を誤魔化すように、僕はその箱を丁重に抱え上げて、未だ困惑している様子の三振りを振り向いた。
「驚かせてごめん。事情は上に行ってから話すよ、今はとにかく早くここから離れたい」
「…わかった。ここはろくに掃除もされていないし、瘴気も溜まっているからね。長居はしない方が賢明だ」
僕が普段通りに戻ったことを確信したのか、聞きたいことはたくさんありそうだけど一旦それを飲み込んでくれた長義に続き、全員で地下室から上がる。
ただ、この漆塗りの箱は意外と重くて、これを持ったまま梯子を上るのは僕には無理だったので、長義に持って上がってもらった。
長義は箱を脇に抱えると、器用に片手だけで梯子を掴んで上っていく。
地下室への扉は、丁度この箱を横向きにしたままでも通れるくらい広かった。
「雛…中で何があったのだ？」
全員が地下室から脱出したあと、扉を閉める五虎退を尻目に三日月が問いかける。
長義から箱を受け取った僕は、それを三日月に見せながら先ほど見たことをそのまま伝えた。
「その…二代目の霊力をすべて吸い切ったと思ったら、虎くんの後ろに男の人が見えて…その人が指を指した方向に、この箱があったんだ」
「これは…刀箱、だな。大きさからして、打刀か？」
まじまじと箱を観察する三日月に、長義が頷く。
「恐らく。だが、こんな上等な刀箱が、なぜこの地下室にあったのか…中には何か入っていたか？」
「それが、開かないんだよね。これ。
開けようとしたら、急に耳元で"まだ足りない"って男の人の声がして…驚いて振り向いた時に、長義を叩いちゃった」
「あの叫び声は、そういうことだったのか」
面目ない…と肩を落として、三日月や国広たちに視線を巡らせた。
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作者名：寒蘭 | 作成日時：2023年11月14日 17時
