九秋審神者、黒本丸を立て直す参 (ページ5)

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第97話ページ5

「～～～ッ！」

熱さと痛みで跳び上がる。
けれどそこにあの男の姿は無くて、ただ開いた障子の奥に綺麗な庭が広がっているだけだった。

おかしい。僕は今まで、遡行軍の本丸で鍛刀していたはずなのに。
生意気なことを言って、怒った歴史修正主義者の男に仕置きされたはずなのに。

それに、確かに足は痛いけれど、火傷のような痛み方じゃなくて首を傾げる。
なんだろう、例えるならそう…裸足でガラスを踏んだ時みたいな──

「なんだ、起きたのか」

「…えっ、椿さん!?」

和室の真ん中に敷かれた布団の中で、呆然と遠くの庭を眺めていると、障子の影から顔を出した人物に吃驚(きっきょう)する。
部屋に入ってきた椿さんに続いてきた、見慣れたような見慣れないような、黒スーツをかっちり着こなした三日月宗近の姿でまた驚いた。

「先輩の三日月もいる…？なんで？
鍛刀は？木炭は？僕、霊力なくて、それで…」

「おいド阿呆、いつまで寝ぼけてんだ。
ここは山城国麝香連理草城。一年前に審神者が死んで、お前が引き継いだブラック本丸。
お前はここのへし切長谷部と薬研藤四郎の二振りと戦い、結果血を流しすぎて倒れた。まぁただの貧血だが、傷も多い。しばらくは安静にしてろ」

僕のすぐ横に来て腰を下ろした先輩の言葉で、段々と朧気だった記憶が鮮明になっていく。
そうだ。僕、三日月に刀を借りて、薬研や長谷部と戦ったんだ…

「…悪い夢を、見ていたのだな」

「おい宗近、邪魔だこら」

隣に座った椿さんを押しのけた三日月が、先輩の文句も気にせず至近距離に近づいて僕の頬に手を添えた。
息がかかるほど近づいて僕の目をじっと見つめた彼は、やがて額をこつりと合わせて目を伏せる。

「安心しろ。お前を害するものは、俺と椿がすべて斬り捨てよう」

「勝手に私を巻き込むな」

優しく微笑んだ三日月に対して、先輩はとんでもなく嫌そうに眉をひそめて口をへの字に曲げた。

てかちっっかいな、この天下五剣…先輩の三日月は、先輩のせいでやけに距離感がおかしくなってしまっている。
そもそも先輩が距離感おかしいからな…

それにしたって、一番美しいとされている天下五剣にこんな至近距離で見つめられたら、さすがに身が持たない…
でも心配してくれているのに、それを振り払うのもなぁ、とぐるぐる悩んでいると、突如体を後ろに引かれて体勢を崩した。