九秋審神者、黒本丸を立て直す参 (ページ39)

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第131話ページ39

実は審神者が結界を張る際、その者の霊力が色鮮やかなオーロラのように現れ、本丸の周囲をまるでカーテンのように覆いつくしていく様が見られるのだ。
しかしこれは結界を張る審神者本人が見ることはできず、祭事中拝殿に入ることができない刀剣男士のみが見られる現象だったりする。

それを見ていた三日月や長義たち曰く、僕の霊力は冷えた夜の空のように澄んだ深い藍色と、そこに浮かぶ月のように鮮やかな黄色が入り乱れていて、大変美しかったらしい。
そんなに綺麗なら僕も見たかったな…と思うが、こればかりは仕方がない。結界を張っている最中は、審神者は拝殿から出てはいけないのだから。

「さて、これでかなり霊力が減ったんじゃないか？」

「そうだね…久しぶりにこんなスッカラカンになったかも」

長義に問われた僕は、自分の手を見つめたまま握ったり開いたりしてみる。
結界は、張る範囲が広ければ広いほど霊力の消耗が激しい。
この本丸は所属する刀剣男士の数も多く、敷地もかなり広いので、上書きなのにほとんどの霊力を持っていかれた。

これで虎を囲い込む霊力の箱を吸い尽くせるぞと意気込んだ僕は、この神聖な装束のままあの埃塗れの蔵に入るわけにいかないので、一度スーツに着替えてから再度蔵へ向かう。

──張り直した結界が原因で、あんな事になるなんて…
この時の僕は、想像もしていなかった。

＊＊＊

「お待たせ、虎くん。今出してあげるからね」

「がうっ」

再び蔵の地下室にやってきた僕は、箱の中の虎に声をかけてから、さっそく手をかざした。
始める前にと、背後に佇む三振りの方を肩越しにゆるく振り向く。
今回も三日月は地上でお留守番だ。

「三人とも、なるべく離れててね。何が起こるかわからないから」

「それはこちらの台詞だな。
危険だと思ったら、すぐに退避するように」

「了解」

腕を組んで悠然とする長義の言葉に頷き、僕は霊力の吸収を始めた。
虎を囲い込む霊力の塊は、少しずつ僕の手に吸い寄せられ、体内に流れ込んで巡り始める。
じんわりと手の平が熱を帯び、体中を駆ける霊力が、会ったこともない二代目の姿を彷彿とさせた。

──酷く痛くて、苦しくて、なのに温かい。
二代目の霊力が指先を撫でる度、心臓が押し潰されそうなほどの強い感情に苛まれる。

…二代目は、刀剣男士に酷い事をした、最低最悪のクズ野郎のはずだ。
なのに…

…こんなに切ないのは、どうしてだろう。