第130話 ページ38
本丸にはそれぞれ特色があるが、共通しているものが一つある。
それが、結界。
どの本丸にも等しく審神者が結界を張っており、それは審神者の霊力または命が尽きるまで維持される。
だが、審神者がいないこの本丸の結界は今、政府が用意した簡易的な結界でしか守られていない。
よくもまぁこんな手薄な状態で一年も持ちこたえたな、と一人感心する。
現在、この拝殿には僕しかいない。
というのも、結界を張る際は、刀剣男士の霊力や神力が混じって結界に綻びが出ることを防ぐため、最中は刀剣男士は拝殿にあがることができないのだ。
様々な神具が祀られた祭壇の前に置かれた、大きな座布団の上に座り、深く一礼する。
これから行うのは、本丸の結界の張替え。
と言っても特に難しいことはない。この場所で霊力を流しながら祝詞を唱えれば、自動的にこの拝殿から本丸四方の祠に霊力が送り込まれ、結界が上書きされていく。
なぜこんなことをするのかと言えば、理由は二つ。
一つ目は先ほど言った通り、現状この本丸の結界はとても脆く、仮に今遡行軍に攻め込まれでもしたら、一瞬で陥落してしまうだろう。それを防ぐため。
二つ目は、この結界の上書きをすることで大量の霊力を消費し、霊力の結界で囲われた五虎退の虎を解放するため。
一応手入れでも霊力は消費するけど、やっぱり鍛刀と比べても消費は少ないし、時間がかかりすぎる。
それに、確かに男士たちの手入れは優先すべきだけど、それ以上に結界がここまで弱まっているのも見過ごせなかった。
政府支給の簡易結界はいつ頃から放置されているのか、低級の悪霊でも突破できそうなほど脆弱になっている。
この一年間襲撃されなかったのが不思議なくらいだ。
ということで、だいぶこの本丸の男士たちにも受け入れてもらえたわけだし、霊力の大量消費のついでに結界を張り直そうという話になったのだった。
「──終わったようだな」
長々とした祝詞を一度も噛むことなく読み終わり、作法に則って拝殿から下がると、拝殿の前で待っていた三日月がこちらを振り向いた。
その顔は喜色に満ちていて、なんだか上機嫌である。
「結界が張り替わっていくところ、見てた？どうだった？」
「うむ、とても美しかったぞ。
初代の結界と引けを取らないほどであった」
「えーそんなに？へへ、嬉しいなぁ」
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作者名：寒蘭 | 作成日時：2023年11月14日 17時
