第129話 ページ37
本当に意味の解らない二代目の行動に熟慮していると、不安そうにこちらを見上げる五虎退が目に入って思考を止めた。
「あ、あの…虎くんは、出てこられますか…？」
「ん、大丈夫。これはただの霊力の塊だからね。
虎くんを解放するには、この霊力を全部吸い取っちゃえばいいんだよ」
両手を腰に当てて、霊力結界の前で仁王立ちする。
普通の結界なら、その柱となる術具に手を加えればいいけど、これはただの霊力の塊なので解呪の術をぶつけたって意味がない。
物理で壊すには硬すぎるし、単純にこの霊力を奪い切るしかないのだ。
「でも、君たちはやっちゃだめだよ。この霊力は二代目…つまり人間のもの。
人間の霊力を君たち神様が大量にため込んでしまうと、別のものに変質しちゃうかもしれないから」
そうして神格を落とし、刀剣男士でいられなくなった者が過去に存在する。
といってもずっと昔の話だし、ほとんどおとぎ話のようなものだけれど。
「だが、ここまでの霊力…君一人で受け止めきれるのかな？」
横からひょこりと顔を出した長義に問われ、僕は素直に首を振る。
「いや、さすがに今は無理かな。さっき手入れしたとはいえ、眠ってご飯食べたおかげでばっちり霊力も回復しちゃってるし…そもそも、昨日の時点でそこまで減っていなかったからね」
「じゃあどうするんだ？」
反対側から国広に顔を覗き込まれ、僕はにっと口の端をあげて不敵に笑って見せた。
「一気に大量の霊力を消費して、尚且つこの本丸のプラスになる方法が、一つだけある」
＊＊＊
──場所は変わり、本丸中央の拝殿にて。
この本丸には、敷地の丁度中央に
といっても、現世の神社のようにご神体を祀る本殿はなく、ここは本丸に張り巡らされた結界の主軸となる場所だ。
この拝殿を中心として、線で繋がるように本丸の四方に設置された祠が、結界を成り立たせている。
拝殿の中に進み入って、緊張した面持ちで祭壇の前で一礼する僕は、いつもと少し様相が違った。
塩と酒で清めた冷水で禊を行い、スーツではなく白い
今から僕がやるのは、この本丸に張り巡らされた結界の張替え…
いわば神事に近しい、神聖で重要な大仕事だ。
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作者名：寒蘭 | 作成日時：2023年11月14日 17時
