第128話 ページ36
「…どう、ですか？」
「うーん…これもしかして、単純で面倒くさいやつかも…」
「単純で面倒…？」
手当たり次第に結界の周りをぺたぺたと触りながら、心配そうな五虎退の声に応える。
僕の曖昧な言葉に訝し気な声を上げた長義を振り向いて、触れても何の反応も示さない結界をこんこんと叩いた。
「うん。この結界は見ての通り、術を制御する札も陣も何もない。それらの術具を必要としない結界なんて聞いたことないし、そんなものがあったら今頃大勢の術者がこぞって使ってるだろうね。
つまりこれは、結界なんかじゃなくて…
大量の霊力をガチガチに固めてるだけの、ただの箱だよ」
そう言うと、それまで興味なさげに寛いでいた虎が、突然嬉しそうに短く鳴き声を上げた。
…正解って言ってるのかな？いや、なんで閉じ込められてる本人──本虎？──がそれを理解しているんだろう…
もしかして、この虎は自分の意思でここに閉じ込められていたとか…？そんなまさかね。
在りもしない憶測を振り払うと、そばまでやってきて霊力の結界の前に膝をつき、手を当てた国広がこちらを見上げた。
「…確かに、この結界からは二代目の霊力を感じる。だが、本当にそんなことが可能なのか？」
「可能っちゃ可能だけど…でもそれだと、霊力が少ないって自称してたこととつじつまが合わなくなるかな。
だって、こんな大量の霊力を、ここまでカチコチにできるなんて相当だよ？そもそも、これを作った本人は一年も前に亡くなってるのに、こんなに残ってるなんて…どれだけ多くの霊力をつぎ込んだんだか」
少なくともこれを生み出してから一年以上は経過しているのに、未だ簡単には壊れなさそうな霊力の塊に、呆れを通り越して感心する。そこまでして五虎退と虎を引き離したかったのか。
けれど、二代目がそんなことをした意味がわからない。
わざわざこんな霊力を消費しなくたって、強力な結界術なんていくらでもあるのに…
というか、一年も放置されていた虎が元気な理由もこれか。
霊力でできた箱に包まれているから、常に霊力が不足することはなくて、そのおかげで水や食事をとらなくても衰弱していないんだ。
彼も元はといえば付喪の一端だからな…霊力さえあれば問題はないのだろう。
けれど、そうなるとますますわからない。
五虎退と虎を引き離したいのなら、そんな虎への配慮なんていらないはずだ。
二代目は何を企んでいたんだ…？
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作者名：寒蘭 | 作成日時：2023年11月14日 17時
