第127話 ページ35
足が安定した地面についたことを確認して梯子から手を離し、背後を振り向いて周囲に目を走らせる。
蔵の床下に隠されていた地下室は、幸いにもそこまで深くはなく、開け放たれた扉から入り込む光だけでも何とか全貌を確認できた。
といっても、地下室は怪しげな物で溢れているとか、露骨に呪符が張り巡らされているとかってわけではなく、がらんとしている。
何か目を引くものがあるとすれば、部屋の中央で青白い光を放つ透明な箱の中で眠る、白い虎の姿があるだけ。
何もない薄暗い空間で眠る虎というのも、どこか異様な雰囲気を持っており、もしかすると壁一面に手形があるとかの方がマシだったかもしれない。
そう思ってしまうほどに、この部屋の空気はとても重苦しく、すぐにでも飛び出したい気持ちになった。
それはほかの三振りも同じのようで、皆一様に顔をしかめている。
するとその時、青白い結界の中で眠っていた虎がぱちりと瞼を持ち上げ、こちらを捉えた。
虎は色の異なる二つの瞳で真っ直ぐに僕を見据えると、ぐるる、と小さく喉奥で唸った。
「…え、何かため息つかれた？」
「…俺にもそう見えたぞ」
床に体を伏せて前足に顎を載せたまま、虎はまるで「はぁ…やれやれ」とでも言いたげな軽い様子で視線を流している。
かれこれ一年以上この状態らしいから、衰弱でもしているんじゃないかと心配していたのに、予想より元気そうな様子に素っ頓狂な声を上げる。
それに同意した国広と顔を見合わせてから、五虎退に視線で問うと、彼も困惑したように虎に近づいた。
「と、虎くん…？どうしたの？」
「ねぇ、五虎退。虎くんって一年くらいこうして閉じ込められてるんだよね？大丈夫なの？」
「えっと…大丈夫、だと思います…たぶん。
僕、虎くんの気持ち、少しだけわかるんですけど…
お腹すいたとか、苦しいとか、感じないので」
結界の壁に五虎退が触れると、中にいた虎は壁越しに額をこすりつけた。
彼の言う通り、確かに衰弱している様子はなさそうで一安心…けれど、問題はこの結界をどうするかだ。
普通、結界には札や陣が必要になる。
けれど、この結界にそれらしきものは見当たらない。
札を取るか陣を消すか、もしくは解呪の術をぶつければ済む話なのに、これがどんな結界かわからない以上どの術を用いればいいのか不明だ。
結界に触れても弾かれたりはしないようなので、試しにぺたぺたと触れてみる。
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作者名：寒蘭 | 作成日時：2023年11月14日 17時
