第126話 ページ34
「僕も、そう思っていました。
でもやっぱり、ここが一番虎くんの気配が強い気がして、何度か探しに来たんです。
そしたら…ここ、音をよく聴いててください」
蔵の一番奥まで辿り着くと、五虎退は土埃に塗れた床板を指さしてから、その場でトントンと爪先を打ち鳴らした。
そしてすぐにそこから二歩横にずれ、もう一度同じように音を立てる。
するとどういう訳か、一回目と二回目では音の響き方に差異が生じた。
一回目の音は重く、二回目は軽い。
「まさか…隠し扉？」
ぽつりと零れた僕の呟きに頷くと、五虎退は身を屈めて何やら床を触り始めた。
緊張に生唾を飲みながらその様子を見守っていると、突如がこんと重たい音が響き、五虎退の足元の床が持ち上がる。
現れた段差に白い手を差し込んで、勢いよくそれを持ち上げると、なんと何もないと思っていた床に一メートル四方の大きな穴が開いた。
「これは…」
驚愕に目を見開く国広。さすがの初期刀でも、これは知らなかったらしい。
彼が知らないということは、まさかこの隠し扉は二代目が作ったのか…？そんな推測をしていると、長義がやれやれとわざとらしく肩をすくめた。
「まったく、偽物くんはこんなものも見つけられなかったのか。目に映るものだけに意識を囚われるなんて、よくそれで天下五剣と肩を並べられたものだ」
「…写しは偽物じゃない」
そう言って眉根を寄せる国広は、しかし長義の指摘を尤もと考えているらしく、それ以上噛みつく様子はない。
国広は大人だな…いや、長義も長義で言ってることは正しいけど、言い方にとげがありすぎるな。
彼は政府に所属していた別個体の国広にも突っかかっていたからなぁ…はたから見たら世話を焼きたがっているようにしか見えないけど、それを言うとめちゃくちゃ怒られるので心に留めておく。
「とにかく、この先に五虎退の虎くんがいるんだね？」
「は、はい。中は暗いので、気を付けてください」
穴の中に入り、梯子を下っていく五虎退の姿は、すぐ暗闇に紛れてしまった。
この暗さでは三日月は動けなくなるので、今度こそ降ろしてもらい、国広、長義、僕の順で後に続く。
「何か異変があったら、すぐに呼ぶのだぞ」
「わかったわかった」
梯子を下り始めると、床に膝をついて心配そうに覗き込んできた三日月。
過保護な親かな…と苦笑して、ゆっくりと暗闇を下って行った。
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作者名：寒蘭 | 作成日時：2023年11月14日 17時
