第125話 ページ33
僕の問いかけに、五虎退は表情を曇らせた。
隣の国広は、何かを言い淀む五虎退の代わりにそういえばと首を捻る。
「随分前から姿が見えなくなっていたが…最初に聞いた時は"いなくなった"と言っていたな。俺も度々探していたが…あれからどうだ？」
「えっと…その…虎くんは、見つけ、ました。でも…」
泣きそうに語尾を弱めていくと、五虎退は裾を強く握りしめて、俯いた。
…なんだか物凄く嫌な予感がする。
僕は肩を震わせる五虎退に近づいて手をとると、優しく包み込んで、その
「五虎退。僕言ったよね、この本丸のみんなを助けたいって。それは虎くんだって例外じゃない。
だって、虎くんは君の大切な仲間でしょう。
虎くんの身に何かあったなら、僕に手助けさせてもらえないかな？」
「っ…はい…お願い、します…！
虎くんを、助けてください…！」
そう言って顔を上げた五虎退に、もう迷いはなかった。
＊＊＊
「…ねぇ、いい加減自分で歩けるから降ろしてよ」
「いやいや、この蔵は随分長いこと放置されていたからなぁ。足場が悪い上に物も散乱しておる。素直に甘えておけ」
──蔵で動けなくなっているという五虎退の虎に会うため、本殿から一番遠い所にある蔵へやって来た。
ここは二代目の私物を押し込んでいる蔵でもあり、掃除が行き届いておらず埃っぽい。
五虎退の案内で中を進んでいるのだが…もう足の痛みはマシになったし、自分で歩けるというのに三日月が聞いてくれず、僕は未だに抱えられていた。
別に靴履いてきたし、そこまで過保護にならなくても…とは思うものの、これ以上拒否したら傷つけてしまいそうなので、諦めてそのまま三日月の肩に掴まる。
けれど何となく不服で唇を尖らせていると、どんどん蔵の奥へと進む途中で、国広が先陣を切る五虎退の背に問いかけた。
「本当にここに虎がいるのか？五虎退。
この蔵には二代目の死後、皆で荷物を運び込んだが、その時に虎なんていなかったぞ」
国広の疑問に、僕も内心で同意する。
というのも、五虎退の虎がいなくなったのは、二代目が亡くなる少し前のことだったらしい。
そしてつい最近になって、この蔵で結界に閉じ込められる虎を発見したとのことだったが、今国広が言った通り、ここには二代目の死後、複数の男士が訪れている。
修行を経た五虎退の供である虎は大きな体をしており、見落とすには少々目立つはずだ。
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作者名：寒蘭 | 作成日時：2023年11月14日 17時
