九秋審神者、黒本丸を立て直す参 (ページ4)

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第96話ページ4

──ばしゃり、と顔に水がかかって目が覚めた。
水が鼻に入って苦しいはずなのに、それも感じずどこか他人事のように目を開けて周囲を見渡す。

するとそこにはどこかで見たような、しかし誰だかわからない男がこちらを見下ろしていた。
彼を視認した瞬間、僕は理解する。

──あぁ。ここ、遡行軍の本丸だ。

『いつまで寝てんだこの屑！鍛刀はまだ終わってねぇぞ！』

『かは…ッ』

腹を蹴り飛ばされ、感じないはずの痛みで悶える。
横たわって腹を押さえる僕の肩に足を乗せ、踏み潰すようにグリグリと体重をかける男を見上げた。

『で、でも、もう霊力は残ってな…うぅっ…！』

『舐めたこと抜かしてんじゃねぇ！
てめぇみたいなゴミの霊力じゃ、ただの鉄くず同然の刀剣しか顕現できねぇんだ！いいから黙って鍛刀しろ!!』

もう一度僕の腹を蹴り上げた男は、鼻息荒く怒鳴りつけた。
その男の言葉に、どうしてか無性に腹が立って、腹が痛まないのをいい事にじろりと睨みあげる。

"鉄くず同然"…？
あぁ、そうだった。顕現した刀剣男士を守護者として崇め、大切な存在として扱う時の政府側の人間と違って、歴史修正主義者たちは顕現した物語のない(・・・・・)刀剣男士たちを、まるで使い捨ての道具のように扱うんだった。
研修中に出会った時の政府側の審神者と刀剣男士たちの、固い絆と信頼で築かれた圧倒的な強さを見てからこちらを見ると、本当にクソみたいで反吐が出る。

『っは、馬鹿じゃないの…あんたたちのために、己の信念のために戦ってくれてる付喪を、ただの鉄くず呼ばわりしてさ…
そんなんだから、歴史修正なんてくだらない野望を叶えられないんでしょ』

気づけば、そんな言葉がするりと口から零れ落ちていた。
昔の僕なら絶対に言わない。だって、これが"正常"だと信じていたから。

でも違う。こいつらは、異常だ。

あぁ、早く帰らなきゃ。早く帰って、みんな(・・・)の手入れをしてあげなきゃ…

『そうか…まだ、仕置きが足りねぇみたいだな』

次の瞬間、後ろから何者かに羽交い絞めにされる。
そちらを見上げると、打刀の男士が感情のない赤い瞳でこちらを捉えていた。
そのうちに、二振りの短刀が僕の足を押さえつける。

一度離れたかと思った男はその手に火鋏を持ち、火から上げたばかりの木炭を携えて近づいた。

『言うことを聞かないゴミには、仕置きが必要だ』

気味の悪い笑みを浮かべた男は、赤白く染まった木炭を僕の脚に押し付けた。