九秋審神者、黒本丸を立て直す参 (ページ30)

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第122話ページ30

「その社員証はどうした」

「一応くすねておいたけど…椿さんに『どうせ盗んだと難癖付けられて終わる』って言われたから、特に使うこともなく隠し持ったままだよ」

険しい国広の言葉に、頭を振って息を吐く。

次に、遡行軍に攫われてきた審神者の話。
僕は遡行軍に新しく審神者がやって来る度、世話係のようなことをやらされていて、よく話し相手になっていた。

そこで得た情報なのだが、彼らは全員"時の政府から護衛を付けずに来いと指示されて、政府に単身で出向いた時"に攫われたらしい。
ある者は「刀剣男士には害があるタイプの結界の試運転のため」と言われ、またある者は「遡行軍の動きが活発な今本丸を手薄にするわけにはいかないため」と言われ、そうして手を変え品を変え政府からの呼び立てが審神者たちを引きずり出した。

しかもそのほとんどが、刀剣男士には政府に行くことを伝えてはならないという指示もあったため、彼らの本丸では主が突然失踪したようにしか見えないのである。

そして一番大きな疑問点といえば、ここまで長い期間定期的に審神者が消えているというのに、これまで大きな問題として取り上げられなかったこと。

確かに、時の政府及び本丸というシステムが確立された当初は、手探りの運営だったらしいこともあり、激しい戦に耐え切れなくなって行方をくらます審神者も大勢いたそうだ。
だがそれから永い時が経ち、各本丸の運営も安定して政府の機能も整備された。
今では審神者を保護する法律も整い、以前のような本丸だけに縛られる審神者というのはほとんどおらず、現世での仕事や生活を兼任しながら審神者業を営む者も多い。

だというのに、未だ度々現れる失踪者。
退任届けを出せば済む話なのに、何の手続きもないまま消えた審神者。
これは、過去の整っていなかった体制の頃に常態化してしまった審神者の失踪が、この故意に行われている失踪事件を燻らせているに過ぎない。

「…とまぁ、こんな感じかな。
ね？あまり有力な情報ではないでしょ」

「そう…だな…いやしかし、何一つとして得られなかったこれまでを考えると、かなり大きい」

顎に手を当てて考え込む国広にフォローされつつ、手入れを終えた五虎退の刀を返した。

いくら目で見た真実があるとはいえ、他人に見える物的証拠は何もない。
だからあまり期待させるのもな…と思っていたけれど、案外前向きな反応でほっとした。