第120話 ページ28
「雛や。そう簡単に己の命を削るような真似をするな」
「ご、ごめんなさい…？」
「三日月宗近の言う通りだよ。まったく、君は本当に大馬鹿者だね」
「いひゃい」
猛吹雪を背負って満面の笑みを浮かべる三日月に迫られ、横から伸びてきた長義の手に頬を引っ張られた。解せぬ。
別に、これくらいなら水中で息止めてるくらいの苦しさで済むんだけどな…まぁ、ただ息を止めるだけと違って、首が締まると血液が回らなくなるから、限界が来るの早いんだけど。
でも心配してくれているみたいだし、あまり言い返しても良くないよなと思い至って、素直に謝った。
それから驚いたように目を見開いて硬直する国広と五虎退に向き直り、真摯な眼差しを向ける。
「突然隠蔽の術なんか発動して、警戒させてしまったかもしれない。それはごめんね。
でも、ほかの男士に聞かれると困るんだ…単身で突っ走って、政府に殴りこまれでもしたら困るから」
「…どういうことだ？」
呆然としていた国広は、僕の言葉ではっと意識を取り戻し、訝し気に眉をひそめた。
五虎退も異様な空気を悟ってか、緊張した面持ちで息を呑んでいる。
腕を組んでどこか不機嫌そうに立っていた長義と目配せし、頷き合ってから神妙に声帯を震わせた。
「椿さんからもう聞いているかもしれないけど…
あなたたちの初代審神者失踪事件に、時の政府が関わっている件について」
その言葉で、国広と五虎退と三日月の目の色が変わった。
椿さんは新たに報告された失踪審神者の捜査に行ってしまったし、僕が代わりに話すしかない。
ただ、僕にある情報はすべて憶測でしかないので、本当に話してもいいものか迷うけど…でも、椿さんはそれが真実だと言っていた。
ならば、彼らには伝えておくべきだろう。
けれど…その前に、やることがある。
「今日はそのことについて話しておこうと思ったんだけど…その前に、二振りの手入れをしてもいいかな？」
「…あぁ」
「お、お願い、しますっ」
おや…断られるかと思っていたけど、案外すんなりやらせてくれる。
意外な反応に驚いて、これも三日月効果なのかな…とか思いつつ、より傷の深い国広から手入れを始めた。
受け取った刀に一礼してから、後ろでソワソワしている三日月を緩く振り向く。
「…ごめん、早く聞きたいんだよね。詳しい話」
「…そう、だな。はは、急かすようですまんなぁ」
「いいけど…残念ながら、あまり実になる話ではないよ」
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作者名：寒蘭 | 作成日時：2023年11月14日 17時
