第119話 ページ27
「いつ殺そうと思っていた、か…
そうだな。我らの手入れが済んだ頃には、と」
「っ…」
おかしいと思っていた。いくら僕に刀剣男士の血が流れていて、彼らと近しい存在だからとはいえ、この本丸の総大将である三日月が簡単に招き入れるなんて、普通に考えて何か裏があるに決まっている。
最初に三日月が、僕のことをあんなにも簡単に受け入れたのは、一度気を許したと見せかけて、安心した僕を殺すためだったんだ…
僕のことを敵視する男士が多い中、三日月だけが唯一早い段階から優しくしてくれた。
でもそれは、裏を返せば──
「はっはっは、そんな顔をするな。
今はもう、そんなつもりはない」
「…ほんとに？全振りの手入れ終わらせたら、手の平返してこない？」
「あぁ。お前が裏切らない限りはな」
そこはしっかりしてる…と、こちらに向き直って頭を撫でてくる三日月を見上げる。
一瞬、あんな優しくしといて実は機会を窺ってたらしい三日月にビビりまくってしまったけど、今のところもう僕に対する警戒心は無いらしいので安心した。
それにしても、三日月が一番人間を憎んでいるってどういうことだろう…国広や一期一振はわかりやすかったけど、彼らよりも内に秘めた感情は重いのだろうか。
朗らかに笑いながら僕の髪を丁寧に指先で梳く三日月は、本当に人間を慈しんでいるように見える。
けれど…本当は、そうじゃないのかな。
腹のうちが一切見えない三日月に不安を抱いていると、不意に障子の向こうから控えめな声がかかった。
「代理はここにいるか」
「あっうん、いるよ。どうぞ」
そういえば、彼らにここに来るようこんのすけに言伝を頼んでいたんだった。
ちゃんと来てくれたようで一人胸を撫で下ろし、入出した二振りに向き直る。
「わざわざ来てもらってごめんね。
山姥切国広、五虎退」
こちらを理性的な目で捉える国広と、緊張しながらも恐怖心はかなり消えた様子の五虎退に笑いかける。
五虎退が障子を完全に閉めたことを確認してから、僕は懐から一枚の札を取り出し、部屋の壁に貼り付けて呪文を唱えた。
また制約が発動して首が締まるけど、この術の発動は早いのですぐに終わる。
「っは…けほ。あ、突然術なんか使ってごめんね。これはただの隠蔽の術だから安心して、この部屋の声が外に聞こえなくなるってだけだから…え、何？」
きちんと術が発動しているのを確認して振り向くと、三日月が物凄く怖い顔で笑っていた。長義の顔も怖い。なんで？
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作者名：寒蘭 | 作成日時：2023年11月14日 17時
