第118話 ページ26
あり得たかもしれない可能性に、一人身震いする。
薬研と長谷部二振りを相手するのでもかなり大変だったし、実際かなりギリギリだった。
そこにさらに増援が来ていたらと思うと…みんなが手出ししなくてよかった。
ほっと安堵するのも束の間、それでも拭いきれない違和感に宗三を見上げる。
「でもさ、今朝の僕の話を聞いていたからって、そんな簡単に信用できるもの？
僕自身、何を言ったかあまり覚えてないけど…」
「…まぁ、貴方があまりにも憐れだったので、同情したというのもありますけど」
「けど？」
手入れを終えた刀を宗三に返すと、彼はそれを受け取らず、そっと顔を近づけて耳元でこそりと声を潜めた。
「──三日月宗近が刀を預けていたからですよ。あの
息がかかるほどの至近距離で響いた言葉に、ぞわりと背筋が粟立つ。
入り口付近に立つ三日月を静かに見やると、彼は何も聞こえなかったようでぽやぽやと笑ったまま小首を傾げた。
…三日月が、彼らの中で最も審神者を、政府の人間を憎んでいる？
初めに僕が彼らと邂逅した時、一番に僕を受け入れる意思を示した、三日月が？
そのことを飲み込んだ途端、鼓動が早まっていく。
背中に嫌な汗が滲むのを感じながら、「彼がそこまで認めたならば、信用に値すると確信したのですよ」と締めくくった宗三に刀を返した。
ようやく織田組の手入れはすべて完了し、疑問も解消された。
口々にこれからよろしくと言いながら手入れ部屋を後にする彼らを見送って、三日月に向き直る。
こちらに気づいて微笑んだ三日月は、実に穏やかで…それが余計に、僕の心臓を委縮させる。
震える拳を握りしめて、僕は掠れそうになる声を必死に絞り出した。
「あ、のさ。三日月…変なこと、聞くんだけどさ」
「ん？」
「──…僕の事、いつ殺そうと思ってた？」
首筋の温度が消えるのを感じる。脈動がどんどん早まり、呼吸がしずらい。
横で資材の確認をしていた長義も、異変に気付いたのか見つめ合う僕らを振り向いて、どこか緊張した面持ちで息を呑んだ。
三日月は…僕の言葉に目を丸くした後、困ったように眉を下げて笑った。
「…宗三に、何か言われたのか？」
「……」
「…まぁ良い」
何も答えない僕から目線を外すと、三日月はゆっくりとこちらに近づき、僕とすれ違うところで足を止めた。
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作者名：寒蘭 | 作成日時：2023年11月14日 17時
