第117話 ページ25
そんな風に思われていたのは心外だけど、僕そのものを嫌っていたわけではないみたいで安心した。
どちらかというと、やっぱり審神者という存在自体信用していないらしい。
そりゃそうか…優秀な初代が消えた後、政府からあてがわれた審神者が
手早く長谷部の刀も手入れし終え、最後に宗三の刀を受け取る。
すんなり渡してくれた宗三に、ふと違和感を覚えて首を傾げた。
「そういえば、薬研や長谷部はまだわかるけど…宗三はどうしてそんなに僕に気を許してるの？」
今まですっごくナチュラルに話していたけれど、よく考えたら彼とはこれが初対面だ。
だというのに、この警戒心の無さは何だろう？
いくら椿さんから僕の話を聞いているとはいえ、実際に僕の人となりを見ていたわけではないだろうし…
と心当たりがないのに友好的な態度の宗三を覗き込むと、彼は何かを躊躇うように──というか、言ってもいいものかと思案するように──視線を巡らせた後、まるで開き直ったかの如く美しい満面の笑みを浮かべて見せた。
「実は僕たち、今朝の貴方たちのやり取りを影から見ていたんですよ」
「えっ…今朝のやり取りって…しかも僕"たち"？」
驚きすぎて、抜いた目釘を取りこぼしてしまった。
これを見失うと大変だと慌てて探すと、案外近くで止まっていたので安堵する。
それから宗三の方を窺うと、彼は困ったように眉を下げて、今朝の出来事を話してくれた。
…宗三の話によると、実は僕が薬研や長谷部と戦っていた時、複数の男士が影からその様子をこっそり見ていたらしい。
というのも、全然気づいていなかったが、僕らが戦っていたあの場所は刀剣男士たちの私室が並ぶ建物の裏庭で、窓を開ければ丸見えになる位置だったそうだ。
そんな場所で剣戟の音が鳴り響いていたら、さすがに誰だって眠れないし気になるだろう。
だからその辺りの部屋にいた男士はほとんどが、僕たちの様子を息をひそめて見つめていたのだとか。
「でも、長谷部たちに『今夜は瘴気が濃いから出るな』って言われてたんだよね？」
「そんなの、新しく来た審神者を亡き者にすることの隠語に決まっているでしょう。
それをわざわざ言ってきたということは、手出し無用ということでもありますから、大人しく見ているだけにしておきましたけど」
じゃあ、もしかしたらほかの男士が参戦してた可能性もあったのか…
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作者名：寒蘭 | 作成日時：2023年11月14日 17時
