第116話 ページ24
心配だったんだな…と生温かい目で不動を眺めてから、気を取り直して手入れに取り掛かる。
まずは薬研から。
ここは手入れ部屋なのでこんのすけに手伝ってもらう必要もなく、スムーズに進めることができる。
と、いつものように刀身を柄から外している最中で、不意にあることを思い出し、視線を刀に固定したまま問いかけた。
「そういえば結局、僕のオニオンスープに毒を盛ったのは長谷部なんだよね？」
「…貴方、そんなことしてたんですか」
「ぐっ…そ、そうだな。その節はすまなかった…」
僕の純粋な疑問に、ドン引きの声を上げたのは宗三だ。
喉を詰まらせた長谷部に、いやいやと僕は乾いた笑いを漏らす。
「別に気にしてないからいいよ。僕は毒に慣らされてるからね、あのくらいじゃ何ともないし」
「頭痛と吐き気の症状は出ていたけどね」
「ほう…？」
「ん"んっ」
背後でぽつりと漏らされた呟きを咳払いで誤魔化し、薬研の刀身に打ち粉を軽く叩きつける。
長義の言葉でなぜか三日月の声が低くなった…長谷部と薬研の背がピンと伸びている、あまり怖がらせないでほしい。
何で三日月がそんなに怒りオーラを出すのかわからないけれど、このままこの二振りが委縮するのはかわいそうなので、わざとらしい明るい声で話を戻した。
「そ、それで気になったんだけどさ！
君たちが僕に明確な殺意を持った理由って、僕が元遡行軍だったからでしょ？でも、最初に長谷部がそのことを知ったのは、夕飯を作り終えて台所を出た後なんだよね？
でも、その時にはもう僕のスープは鈴蘭の毒に侵されていた…
だから何か、ほかに僕を嫌う理由でもあったのかなと思って」
手伝い札のおかげですぐに手入れが完了した薬研の刀を返し、今度は長谷部の刀を受け取る。
すると、問われた二振りは気まずそうに顔をそらし、まるで叱られている子供のように正座した膝に拳をそろえて置いた。
「…これまでやって来た審神者候補は、すべて正門で返り討ちにしていた。
だが、お前は初めて、この本丸内にまで入ってきた。だから毒を盛って苦しめば、観念して逃げるだろうと思ったんだ」
「…それにしては、鈴蘭の毒は殺意高すぎない？」
「あんたは、腕を斬られても悲鳴一つあげず、俺たちの猛攻を避け切ったんだ。そんなの、普通の人間と同じ扱いしちゃこっちが喰われると思ってな」
「喰われるって…そんな化け物じみてたかな、僕」
薬研と長谷部がしっかり頷いた。解せぬ。
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作者名：寒蘭 | 作成日時：2023年11月14日 17時
