九秋審神者、黒本丸を立て直す参 (ページ23)

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第115話ページ23

「でも、約束は約束じゃ…
殺さないにしても、何かしらの罰とか…」

「…根本的に勘違いをしているな、あんた」

そう言って苦笑し、頬をかく薬研に目を丸くする。
何を、勘違いしているというのか…
そんな僕の疑問に気付いているのか、薬研はそばに置いていた己の本体をゆるく撫で、穏やかに目を細めた。

「先に手ぇ出したのはこっちだ。誰しも、殺されそうになったら抵抗する。
あんたがやったことは、単純に俺たちを害したんじゃなく、ただの正当防衛だ。何も約束に反しちゃいない」

こちらに視線を流すと、薬研は「それに」とどこか言いにくそうに言葉を淀ませた。

「あとはまぁ…なんだ。あんた、遡行軍に攫われた審神者の息子なんだろ？
だから…もしかしたら本当に、俺たちの大将の手がかりも掴めるかもしれないっていう、打算もあるんだよ」

随分と正直な本音を漏らした薬研に、僕は一瞬唖然としてから、そのうち諦めて力ない笑みを浮かべた。

「はは…そっか。うん、わかった。
君たちがそれでいいなら、僕はこれ以上何も言わないよ。その分、これから行動で示していくことにする」

「あぁ、そうしてくれると助かるぜ」

そう言った薬研の明朗な笑みに、僕はほっと安堵に胸を撫で下ろす。
正直、本当にここで終わるかもしれないと思っていたけれど…この話をした時の三日月がやけにすんなり了承してくれたから、もしかしたらこうなることがわかっていたのかもしれない。

僕の経歴を聞いたくらいで、簡単に受け入れてもらえるだろうかとずっと不安だったけれど…僕の母様も彼らの審神者も、遡行軍に奪われたという共通点がある。
似た境遇を持つからこそ、様々な感情を飲み下せたのかな。

とにかく、このまま代役を続行できることになってよかった。
まだまだ手入れが終わっていない男士も多い。
これからよりサクサク手入れを進めていこう。

…と、ひとまずここにいる三振りの手入れをするべく準備していると、ふと隅の方で膝を抱えてじっとこちらを見つめている存在に気づき、首を傾げて彼に問いかけた。

「そういえば、不動はどうしたの？
三振りのことが心配でついてきた？」

「なっ…そ、そんなんじゃねぇよ！
ただ…俺みたいなダメ刀のことも覚えてたって聞いたから、どんなやつかと顔を拝んでやろうと思っただけ」

そう言って顔をそらした不動は、誤魔化すように手にしていた甘酒を呷った。