第114話 ページ22
「三日月の冗談は置いといて」
「いや、冗談などでは…」
「薬研。君は知っていると思うけど、僕の真名を知っているのはここにいる三日月宗近と山姥切長義、そして山姥切国広と五虎退だ。
…三日月と長義は、僕に協力させてしまったから、信用ならないかもしれないけど…国広と五虎退に、僕がしでかした事を報告して。そしたら、真名でさくっと僕のこと罰してくれると思うから。
ただ…できれば、この本丸の刀剣男士たちの手入れは、すべて完了させてからにしたい。信用出来ないのは承知の上だよ、でも、お願いします」
頭を下げたまま、懇願する。
先程の椿さんの話では、僕が眠っている間にこの本丸の男士たちに僕の素性などを改めて説明し、それで納得した彼らは僕を受け入れるという方向で納得したらしい。
けれど、約束は約束。
神との約束を違えるということは、それ相応の代償が付きまとうものだ。
いくら刀剣男士の血を引いているとはいえ、僕だって神様との約束を反故するなんて恐ろしいこと、できるはずは無い。
しかし、この本丸の男士たちを全振り手入れしてからにしたいのも本心。
…まぁ、そうやって手入れしている間に情でも芽生えてくれたりしないかな、なんて下心はあるけれど。
だって僕が死んだら、この本丸は解体されてしまうのだから。
村雲江だって、この本丸に所属していると思われたら一緒に刀解されてしまうかもしれない…
どこまでも無力な自分に奥歯を噛み締める。
すると、それまで静まり返っていた室内に、特徴的な低さの、落ち着いた声音が木霊した。
「悪いが、それはできねぇ相談だな」
「……」
「あんた、言ってたよな。"この本丸を立て直す"って。
…この本丸の奴らは、まだほとんどが傷ついたままだ。
それは肉体だけの問題じゃない。
霊力も、精神も、ボロボロのまま。
言い出したのはあんただぜ。なら、最後まで責任もって、面倒見てもらわねーとな」
思いもよらぬ言葉に勢いよく顔を上げると、したり顔で口元をにやつかせる薬研と、それに同意するように微笑む宗三がいた。
長谷部は仏頂面だし、不動は甘酒を飲みながら顔を赤くしているけれど、そこに反論の意思は窺えない。
なんで、と震える声を必死にひねり出すと、正座したまま体ごとこちらに向き直った宗三がやれやれと言いたげにため息をついた。
「聞いていないのですか？僕らは、貴方を今代の主として受け入れると決めたのです。
今更殺したりなどしませんよ」
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作者名：寒蘭 | 作成日時：2023年11月14日 17時
