九秋審神者、黒本丸を立て直す参 (ページ21)

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第113話ページ21

三日月がゆっくりと障子を開けると、手入れ部屋の奥に四つの影が見えた。
想像より多いその影に目を丸くしていると、部屋の真ん中で円を描くように向かい合って座っていた彼らは、静かにこちらを見据えている。

その四振りとは、薬研藤四郎、へし切長谷部、不動行光、そして宗三左文字だ。

「えーっと…薬研と長谷部だけ来てたんじゃ…？」

「おや、僕のことは手入れしてくれないのですか？」

「いやそうじゃないけど…むしろ、手入れさせてくれるの？」

昨日、重傷の不動を手入れした時には居なかった宗三にくすりとからかわれ、慌てて首を横に振って否定する。
宗三は左文字部屋に行った時にしようかと思っていたけれど、向こうから来てくれたなら好都合だ。

イマイチ意図は読めないけど…と少し警戒していると、部屋に進み入った三日月によって、彼らの数歩手前に下ろされる。
そこで正座をした僕は、四振りそれぞれと目を合わせてから、額が畳につきそうなほど深く頭を下げた。

「君たちに危害は加えないと言いながら、傷つけてしまって本当にごめんなさい。これで許されると思ってないけど、せめて手入れはさせてください」

それからもう一度謝辞を述べ、畳に額を擦り付ける。
そんな僕の姿に、四振りは動揺をあらわにした。

…仮とは言え、今の僕は彼らの主だ。
本当なら、そんな立場の僕がこんなことすべきではない。
神格は彼らの方が上なのだ。だからこそ、審神者は彼らに敬意と畏怖を抱きつつも、主として毅然とした態度を維持しなくてはならない。

けれど…彼らとの約束を違えてしまった。
そのことに対するケジメは、ちゃんとつける必要がある。
これに関しては三日月や長義にも話していたから、背後で待機する二振りから異論は出なかった。
しかし…僕は、まだ顔を上げられない。

「薬研。君は聞いていたよね。昨日、僕がここに来てすぐ、君たちと約束を交わしたこと。
君たちに危害を加えない。君たちの要望はできる限り飲む。初代が帰ってきたら審神者の座を返上する。
そしてもしもその約束を違えた時は…

真名を以て僕を罰すること」

畳の目を見つめたまま言葉を続けると、誰かが息を飲む音がした。
それをかき消すように、背後でやけに明るい三日月の声が響く。

「そして、俺の首も差し出すぞ」

「三日月、ちょっと黙って」

少しだけ顔を上げて後ろを振り向き、三日月をじろりと睨みつける。
誰がこの本丸の要を失わせるかよ。