九秋審神者、黒本丸を立て直す参 (ページ20)

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第112話ページ20

「…そういえば、太鼓鐘にかけられてた呪いも、ちょっと違和感あったんだよなぁ…」

「違和感？」

眉をひそめた長義に頷いて、昨日見たばかりの呪いの様子を思い出す。

「普通、あのタイプの呪いって即効性はないんだけど、あそこまで長い間持つものでもないんだよ。
二代目が死んだのが一年前ってことは、少なくとも一年は太鼓鐘はあの呪いに侵されていたわけでしょ？
でもあれが効力を発揮するのって、短くても一か月、長くても半年くらいなんだ。
それが一年も続いてて、しかも僕が見つけてすぐの時にも、まだ太鼓鐘の生命力までは蝕まれていなかった…」

要するに、とてつもなく進行が遅かったのだ。あの呪いは。
本来ならそんなことあり得ない。
未熟な術者だったとしたら、そもそも効果が現れないか、時間がかかっても効果は薄い。
それに対して二代目がかけたと思われるあの呪いは、確かに長い期間燻っていたとはいえ、効果ははっきりと強力に現れていた。

考えられるとしたら、二代目が術者として未熟だったのではなく、むしろその逆…
それほどまでに精密な術の制御ができるほど、偉大な術者だった可能性が高い。

だがそうだとしたら、ますます意味が解らない。
そんな高度な術が使えるのなら、もっと残酷な方法で彼らを苦しめることだってできたはずだ。
どうしてそんな中途半端なことをしたのだろう。

もしかすると二代目は、何か目的があったのか？
どんな目的かと言われると、想像もつかないけど…

ただのクソ野郎という認識だった二代目の印象が、少しずつ覆る気配を感じて一人うんうん唸っていると、不意に足を止めた三日月に頬をつつかれた。

「ほれ、今はそれよりもやるべきことがあるのだろう？
難しいことを考えるのは後にして、今は目の前のことだけに集中した方が良い」

「…そうだね、ありがとう」

三日月が足を止めた前には、昨日も訪ねた部屋…手入れ部屋の障子が閉ざされている。
昨日までこの部屋で昏睡していた刀剣男士たちは、今朝には全振り目覚めたようで、今はそれぞれの部屋に戻って安静にしているらしい。
今は、とある刀たちがこの部屋で待機している。

緊張で早鐘を打つ心臓を落ち着かせるために、大きく深呼吸をしてから顔を上げた。

「代理審神者です。手入れしに来ました。
入ってもいいかな？」

「……どうぞ」

障子の奥から落ち着いた低音の声が小さく響き、僕は三日月に目配せをして、障子を開けてもらった。