九秋審神者、黒本丸を立て直す参 (ページ19)

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第111話ページ19

「──して、本当にあやつにも呪いがかけられているのか？」

台所を出て、次の目的地へと僕を抱えたまま歩み進める三日月に問われ、僕は低く唸りながら首を傾げる。

「うぅん…それは見てみないと何とも言えないけど、ほぼ確定じゃないかなぁ。
刀剣男士の視力が悪くなるなんて聞いたことないし、逆に五感を奪う呪いは実在するからね」

渡り廊下を進みながら、遠くに見えた池を眺める。
鴨の親子が優雅に水面に浮かぶ様子をぼんやり見つめていると、隣を歩いていた長義が顎に手を当てて胡散らしそうな声を漏らした。

「そうすると、仮に君の推測が正しければ、二代目はあの村雲江の顕現を解かせないために呪いを施したことになる。
それはなんというか…少し変じゃないか？」

「うん、僕もそう思う。
だからこそ、確信が持てないんだけどね」

長義の疑問は僕も抱いていたことなので、異論は唱えずに同意して息を吐きだす。

そりゃそうだ、だってあの二代目だ。
この本丸を引き継いでから死亡するまでの五年間、散々刀剣男士たちを痛めつけ、手入れを怠り、夜伽まで強制した上太鼓鐘に最悪の呪いを施した張本人。
そんな人間が、余所から飛ばされた村雲江をそこまで保護する意味がわからない。

というか、そもそも呪いというのは術者本人にもリスクが伴うものだ。
そんなことをしてまで顕現を保とうとしなくても、別に刀が折れるわけじゃないんだから、彼の本丸が見つかるまで顕現を解いて、安置しておいた方がいいに決まっている。

さらに言ってしまえば、最初に村雲江を見つけた時、すぐ政府に任せなかった理由もわからない。
迷子の刀剣男士はたまにいるので、政府に頼めばそちらで所属本丸を探してくれるはず。
なのに政府には報告せず、自身の本丸で面倒を見ていたのには何か理由があるのか？

この本丸は秘宝の里の任務に行っていなかったらしく、江の刀剣男士は存在しない。
その任務を受けるのが面倒で、たまたま迷い込んだ村雲江を取り込もうとしたとか？
けれど村雲江は「二代目に手を出されたことはないし、二人きりの時は優しかった」と話していた。
その上、霊力を譲渡していることがバレたら村雲江が村八分に遭うかも、なんて気遣いをしていたとまで。

それが本当だとしたら、江の刀がほしくて村雲江を囲い込んでいるという理由は少し違和感がある。
個体識別タグだってないのだから、己の本丸の男士だと偽ることだってできたはずだ。

けれど二代目は、それをしなかった。