第108話 ページ16
「うん…えっ何？」
話の腰を折ってしまった僕を振り向いた村雲江は、三日月にも凝視されていることに気づいたのか、口の端を引きつらせて腰を引いた。
せっかく話してくれる気になったのに怖がらせないでよ、と三日月をじとりと睨むと、彼は少し動揺しながらも「すまんな」と笑って顔を逸らした。
それにしても…と、僕は再び視線を村雲江に合わせると、頭上にはてなマークが見えてきそうなくらい困惑している彼の様子を窺う。
「あの…言いにくかったらいいんだけど…
霊力の譲渡って、その…なんか、夜伽的なやつで…？」
「えっ!?いや、違う違う！そんなこと一回もなかったよ！
普通に、こう…握手する感じでやることが多かったかな。
あとは、急いでる時だとすれ違いざまに頭を撫でてくれて…それで霊力を補充してくれることもあったよ」
これまでと百八十度違う二代目の印象に、三日月や長義と顔を見合わせる。
二代目は、霊力が少なかったんじゃないのか？
それで鶴丸たちを寝所に呼んで、霊力の譲渡をしてたんじゃ…いや、もし仮に閨事が目的だったとしても、他所の刀にそこまで親切にした理由はなんだ？
甘酸っぱいナポリタンの最後の一口をゆっくり咀嚼しながら、二代目という存在を思い耽る。
ここまで刀剣男士たちを蔑ろにした存在だ。刀なんてただの道具で、
今までと全く違った二代目の話に首を傾げていると、村雲江は気まずそうに遠くを見やった。
「そういえば…あの人、周りに刀がいない時は優しかったけど、他の刀が近くにいる時はすごく怖かったなぁ…
大抵、そういう時って向こうから近づくこと無かったし、俺も周りが守るように遠ざけてくれてたから、直接関わることは無かったけど…
"こうして霊力を分けてることが他のやつにバレたら、お前が村八分に遭うかもしれんから黙っとけよ"って、言われてたんだっけ」
どこか懐かしむように、穏やかな表情で語る村雲江に、三日月も長義も険しい顔をしている。
…正直、僕も信じられないものを見るような目をしていると思うけど。
村雲江に霊力を分けていたその人は、本当に二代目なのか？
別人とか、もしくは二重人格とかっていう可能性はないだろうか…
しかし残念ながら、村雲江が来た時にはとっくに二代目が継いでいたし、当時の本丸に二代目以外の人間がいたことはないらしい。
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作者名：寒蘭 | 作成日時：2023年11月14日 17時
