九秋審神者、黒本丸を立て直す参 (ページ13)

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第105話ページ13

「あっ」

「…げっ」

朝食も昼食も食べ損ねた僕は、燭台切が僕の為に残しておいてくれたらしいご飯を食べるため、三日月と長義と一緒に台所にやって来た。
なのだが…台所の暖簾をくぐると、そこでは桜色の髪と犬耳のような飾りが特徴の刀剣男士──村雲江が、茶葉を急須に入れているところだった。

…今「げっ」って言ったか？
まぁ別にいいけど…と内心拗ねていると、村雲江の手の中から茶筒の蓋が逃げていく。

「あっ、わっちょ…！ま、待って…」

軽快に床を跳ねる蓋は、まるで村雲江をからかうようにコロコロと転がると、あっという間に冷蔵庫の裏に隠れてしまった。
最悪だ、と肩を落とす村雲江があまりにも憐れで、僕は物悲し気なその背中に声をかけた。

「あの…大丈夫？僕が取ろうか」

「えっ！いや、いい…いいから、あんまこっち来ないで…」

顔を青くした村雲江にふいと顔をそらされて、さすがに少しショックを受ける。
彼は確か、この本丸で唯一無傷のはずだけど…そんなに僕が怖いのかな。僕の経歴は、恐らく椿さんから聞いてると思うし…

「あのさ、何もしないからそんな怖がらないでよ。
というか、この状態の僕が君に何かできると思う？」

実は、今の僕は三日月に抱えられている。
なぜなら、足の裏が痛んでまともに歩けないのだ。

昨夜、長谷部に襲撃されて部屋を飛び出してからの僕は、ずーっと裸足で本丸内を歩いていた。整備された庭も、埃の被った蔵も、薬研や長谷部と戦った砂利道も。
足の皮は厚い方だと自負していたけど、政府に保護されてからはずっと外では靴を履いていたし、室内でもスリッパを履いていた。
そのせいで柔らかくなった足の皮では、ガラスや刀剣の破片じゃなくたって踏めば怪我をするようになってしまったらしい。

というわけで、立つのも一苦労な僕が少し離れた台所まで歩いていくのは難しいため、三日月に抱えてもらってここまで来たというわけだ。
もう着いたのだから下ろしてもらってもいいんだけど…村雲江と遭遇してそれどころじゃないのかな。

まぁそれはいいとして、とにかくそんな状態なので今すぐ彼に危害を加えることはできない。加えるつもりもないけど。
そんな意図を持っていたのだが、村雲江は「わからない」と言葉少なにまた目をそらし、自力で冷蔵庫をずらして茶筒の蓋を取り出した。

…すごいな、刀剣男士って。
一振りで冷蔵庫持てるんだ。