第103話 ページ11
「随分慌ただしかったね…」
「そうだな」
「で、いつになったら離してくれるの？」
「あぁ、すまんな」
至近距離で見つめ合いながら問いかけると、意外にも三日月はすんなり離してくれた。
なんだかずっと宗近のこと警戒してたみたいだけど…同位体に対してそんなに嫌悪感をあらわにするのも珍しい。
まぁ、ただでさえ見知らぬ存在が急にやって来たんだもんな、警戒もするかと一人納得する。
解放された僕は三日月と向き直り、穏やかにほほ笑む彼を見返した。
「三日月宗近」
「うん？」
「遅くなってしまったけど…
刀を貸してくれて、ありがとうございました」
そう言って床に両手をつき、深々と頭を下げる。
気づいたら意識を失っていて、目覚めたところに椿さんが現れいろいろ話していたから言えなかったけど、ようやく伝えることができた。
正直途中から記憶がなくて、ずさんな扱いをしてしまった気がするけど…
すると、突然頭に手を置かれて少し肩が跳ねる。
そのまま優しく撫でられて、僕は少し頭を上げて三日月を窺った。
見上げた彼の顔はどこか満足気で、優しい笑みを頬にいっぱい湛えていた。
「うむ、よきかなよきかな。
お前に振るわれるのは、何とも言えぬ幸福感に満ちて、とても心地よかったぞ。
ただ…無茶をしすぎるのは良くないなぁ」
「…ごめん」
頭を撫でていた手はするりと頬に降り、貼られていたガーゼをなぞる。
戦闘中はアドレナリンが出まくっていて全然気づかなかったけど、思ったより僕は怪我をしているらしい。
あちこち包帯とガーゼだらけだ。
「もうこんな無茶はしない…とは言い切れないけど、心配かけないレベルで済むよう気を付けるよ」
「んん、それは…いや、今はそれで良いか」
袖で隠した口で言い淀むと、三日月は眉を下げてまた僕の頭を撫でた。
どことなく不服そうだけど、特に叱るような様子はないので安堵する。
すると満足したらしい手を離した三日月は、ふと思い出したように首を傾げた。
「そういえば、雛よ。
お前は、審神者と刀剣男士の子なのだな？」
「うん、そうだね」
「なるほど…我らと同等に戦える上、これまでの後任候補だった審神者と違い、どうにも警戒が薄れやすかったのは、お前が俺たちと近しい存在だったからなのだな。
…して、その刀剣男士とは誰かわかっておるのか？」
聞かれると思ってなかったことを不意に尋ねられ、息が詰まる。
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作者名：寒蘭 | 作成日時：2023年11月14日 17時
