九秋審神者、黒本丸を立て直す参 (ページ2)

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第94話神の傍観④ ページ2

「それで。弟子の素性についてだが…
簡潔に言おう。さっきまでそいつが話していたことは、すべて事実だ。なぜなら、そいつの母親である審神者は、私の古い知り合いでな。
霊力の質も同じ。DNA鑑定もした。間違いない」

そう言いながら椿が空気をかき混ぜるように、棒付きの飴を軽く振り回していると、それを目で追っていたスーツの三日月がその飴をぱくりと口に入れてしまった。
突然の行動に皆がぎょっとしていると、椿はまるで幼子を叱るように「コラッ」と一喝した。

「急にかぶりついたら危ないだろ。
喉に刺さったらどうする」

「む、ふまぬ」

「ほら、食べるなら自分で持て」

スーツの三日月は言われるがまま飴の棒を受け取ると、椿が食べかけていた飴をごく自然に舐め始める。
"一体我々は何を見せられているんだ"というのは、その場にいたこの本丸の男士全員の総意だ。

しかしそんな空気に流されてくれるほど、この本丸の刀剣男士は甘くない。
Aを抱えている方の三日月は、椿とその近侍を見据えてすぅと目を細めると、聞いた者の寿命を縮めてしまいそうな冷えた声で問いかけた。

「…この者の母のことを知っているならば、なぜその母が運営していた本丸に連れて行かぬ？
お前も聞いていたのだろう？この者は、母の本丸を探し出すために審神者になるのだと。そのために、このような場所に身を投じるはめになった。
それでは、この者があまりにも憐れではないのか？」

彼のすぐ隣にいた長義は、そんな三日月の様子にびりりと肌が震えるのを感じた。
それはほかの男士も例外ではないようで、皆一様に息を呑んでいる。

だが、それでも椿は堂々たる佇まいのまま、苦々しい笑みを浮かべてから首を振った。

「…確かに、私が弟子に一言教えてやれば、すべてが終わるだろうな。
なんせ、こいつの母親の本丸が今どうなっていて、父親がどこの誰なのかも、すべて知っているんだから。
だがなぁ…それでは意味がないんだよ。三日月宗近」

一歩一歩、ゆっくりと地面を踏みしめて椿はAと三日月の元に近づく。
周りの男士はそれを止めようとするが、三日月の殺意にあてられて身動きができずにいた。

やがて二人の目の前までやってくると、椿はその場に腰を落としてしゃがみこみ、酷く愛おし気な、それでいて辛そうに揺らぐ瞳でAを捉えた。