第39話 ページ41
「…今日ここへ来たばかりの、何も知らない人間が何を抜かすんだって思うかもしれない。
これは僕の自己満足だ。だけど、言わせてほしい。
僕ら人間を慈しみ、愛してくれたあなたたちを、裏切ってごめんなさい。
僕らのせいで、あなたたちが、あなたたちの大切な人間との思い出まで、憎むようにさせてしまってごめんなさい。
あなたたちの大切な物や、記憶や、想いを、たくさん奪ってごめんなさい。
僕は…その罪を償わずに逝ってしまった先代の代わりに、あなたたちからこれまで奪ってきたものすべてを返すため、ここに来た。
時間はかかるかもしれない。
もう取り戻せないものもあるかもしれない。
でも、それでも、僕はこの命が尽きるその時まで、できる限りを返したいと思っている。
…そのために、まずは、目に見える傷から癒させてほしい。
気に食わなかったら、腕を斬り落としてくれてもいい。
主と呼ばなくたっていい。
だから、どうか…
どうか、今だけは、僕に預けてみてほしい」
そう言って、和泉守や三日月にしたのと同じように、鶴丸の前に跪いて両手を差し出す。
太刀はすぐ目の前にあったけれど、まだ受け取りはしない。
鶴丸が自らの意思で、僕の手に預けてもいいと思うまで。
「っ……ふー…」
息をゆっくりと吐きだした鶴丸は、何かに耐えるように固く目を瞑った。
先ほどまでどうにか鶴丸を避難させようと、大倶利伽羅の腕の中でもがいていた燭台切も、鼻先を赤くして顔をくしゃりと歪め、何も言えないまま鶴丸を見つめている。
大倶利伽羅は、静かになった燭台切を解放すると、眉根を寄せて唇を引き結び、そっぽを向いた。
やがて、ずっと僕に刀を押し付けるように腕を前に出していた鶴丸は、ゆっくりとその腕を下ろすと、苦し気な声音を必死の思いで絞りだした。
「…本当は…ずっと、わかっていたさ…
代わる代わるやってくる後任を切り捨てても…
調査に来た政府の連中に、どれだけ噛みついても…
…こんなにみすぼらしくて小さい、君の首を取っても、意味がないなんてことはわかっている。
誰も彼も、俺たちを苦しめた張本人とは違うからだ」
ゆっくりと目を開いた鶴丸は、諦観したような、それでいて強い悲しみの波に飲まれている様な、様々な感情が混ざり合って溶けだしてしまいそうな目でこちらを見ていた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 168人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
774(プロフ) - キリンミカンさん» ありがとうございます！そう言っていただけて嬉しいです(*´ ˘ `*)これからも頑張ります〜！ (11月3日 14時) (
レス) @page22 id: 69f96811e5 (このIDを非表示/違反報告)
キリンミカン - こういう作品を探していました…！好きすぎて毎日見に来ています。体調に気をつけながらも更新がんばってください！ (11月3日 12時) (レス) @page20 id: e14e8e6fbd (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：寒蘭 | 作成日時：2023年10月27日 17時
