第34話 ページ36
「…重傷者は、全振り手入れ部屋にいたんじゃなかった？」
想定外に低い声が出てしまい、気づいた時には燭台切たちの表情がより険しくなっていた。
しまった…何か勘違いさせたかも。
状況の悪化を察知したが、今更どうすることもできまいと諦め、改めて部屋の奥の布団に横たえられた男士を見やる。
太鼓鐘貞宗…彼は、堀川と相違ないほどの重傷を負っていた。
思い返せば、三日前に見たこの本丸のデータでは、確かに彼も重傷と記録されていた。
しかし手入れ部屋にいなかったので、ふんわりと「治ったのか」なんて呑気なことを考えていたけど、違う。
刀剣男士は、審神者がいないと傷を治せない。
どういうことかと視線で三日月に問いかけると、彼もこの事態は把握していなかったのか、難しい顔で太鼓鐘を見つめている。
「…大倶利伽羅よ。太鼓鐘は、今朝まで手入れ部屋にいたはずだが？
いなくなっていると思ったら、こちらに連れてきておったのか」
「……貞宗は渡さん」
あの一匹狼な「慣れつも」で有名な大倶利伽羅が、はっきりと仲間を庇う発言をしたことに衝撃を受ける。
あれか…前任の暴挙が酷すぎて、その分男士たちの結託がより深まった感じなのか。
極めてもいない大倶利伽羅が仲間を信頼するのは非常に珍しいし、それ自体はとてもいいことではあるのだが、そこに至るまでの経緯はまったく宜しくない。
実態を知れば知るほど嫌いになるな、前任審神者。
はぁーと深いため息をついて、龍のような鋭さを帯びる大倶利伽羅の目を見返した。
「渡さなくていいから、手入れだけさせて。
その間は、いつでも僕の首を落とせるように刀を向けてても構わな──」
「そうやって、和泉守くんのことも誑かしたの？」
言い終わるよりも先に放たれた言葉に、喉が詰まった。
声のした方に目を向ければ、酷く憤慨したような様子の燭台切がこちらを睨みつけている。
た、誑かす…？和泉守を？僕が？
いやまぁ、元主のことをダシにして言いくるめはしたけど、誑かすは意味合いが違くない…？
というか、なんで和泉守を手入れしたことを知っているんだ。情報回るのが早すぎないか？
燭台切の真意が掴めずに、目を白黒させて困惑する。
長義や三日月に助けを求めるように視線を彷徨わせても、二振りとも燭台切の言葉に疑問を抱いたのか、難しい顔で浅く首を横に振った。
これは、なんだか…
とてつもなく、面倒なことになっている気がする。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 168人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
774(プロフ) - キリンミカンさん» ありがとうございます！そう言っていただけて嬉しいです(*´ ˘ `*)これからも頑張ります〜！ (11月3日 14時) (
レス) @page22 id: 69f96811e5 (このIDを非表示/違反報告)
キリンミカン - こういう作品を探していました…！好きすぎて毎日見に来ています。体調に気をつけながらも更新がんばってください！ (11月3日 12時) (レス) @page20 id: e14e8e6fbd (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：寒蘭 | 作成日時：2023年10月27日 17時
