影を重ねるは人間のサガ ページ4
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かち、こち、かち、こち。
時計の針が動く音が部屋の隅々までに反響する。目を開けると、壁にかけられた時計の青く灼けた二つの針が十時を回っていた。思わずギョッとして立ち上がりかけ、次いで腰の力が抜ける。いやいや私仕事やめたんだよな、なら慌てる必要もないか。こんなところにも社畜根性が染み付いているようで、なんだか舌打ちしたい気分だった。
それにしてももうこんな時間か、と肩を鳴らしながらそっとベッドを盗み見る。ベッドの上には抜け殻のように倒れ込んでいる天使の姿があった。翅からは血が滲んでいないか、背中から倒れていないかと確認するため、そっと立ち上がり上から覗き込む。・・・・・・よかった、杞憂で済みそうだ。少し安心しながら「天使って何を食べるんだろう」と背を向ける。その時だった。
ガッと手首を掴まれ、引きずられるように引っ張られる。そして気がついた時には、ベッドの上にいた。何が起こったのかわからないと呆けた顔をした私に、その行動を起こした張本人は小さく喉を鳴らした。
視線が刺さる。当たり前の猜疑心と諦観が入り混じった虚な眼差しに目を見開くと張本人、つまり天使は私の手を一纏めにし、左手だけを使って上に括った。波が跳ねるような唸り声が耳朶を打つ。瞳孔が開いてガチガチ歯を鳴らすその姿は、興奮を隠さない。瞬きするたびに、ぐっと両手首を掴む左手に力が入る。声を出そうとすれば右手が乱暴に振るわれ、ぱしんと頬を打った。爪が肉を引っ掻いたようで、数コンマ遅れて痛みが走る。顔を歪めると、さらに唸り声を激しくし、翅を激しく震わせる。だめだと言いたくてもごつくが、そのたびに右手が頬を打つ。痛い。けれど、自分が何かをしようとするたびぶわりと翼を逆立てて力を込める姿は、手負いの獣のようだと思った。自分を守るために警戒と暴力を振りまくその姿は、自分を守るためなのだろう
『ぼくにかまわないでください、あなたが酷い目に遭うだけだ』
あぁ、あの子にそっくりだ。
姿形も、雰囲気も似ていない。けれど、自分が傷つかないために牙を剥く姿が、どうしようもなく似ていると思った。
「ねぇ、お腹空いてない?」
そう思った瞬間に、ぽろりと言葉が出た。特に意図しているわけではなかった。自分も腹が減っていたというのも大きいけれど。彼にとっては私が何を喋ったのかわからないのは知っている。けれど、敵意がない言葉であることはわかったのか、毒気を抜かれたようにぱちぱちと目を瞬かせていた
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利き手(プロフ) - ずぎ......ずぎ.........なんかもう言葉で表せられないほどすきです......更新待ってます........... (4月25日 18時) (レス) @page26 id: cb93d75c77 (このIDを非表示/違反報告)
、 - この作品に一目惚れしました!!!更新頑張ってください!待ってます!! (6月11日 22時) (レス) id: b2a72ce1c2 (このIDを非表示/違反報告)
海月(プロフ) - コメント失礼します。少し前から拝読しているのですが、仕草や声の一つ一つに自然の意思が宿るような、人ならざる描写が美しく、惹きつけられました。今後二人がどのように交流していくのかが楽しみです。どうか作者様の無理の無い範囲で執筆頂ければ幸いです (2023年4月22日 2時) (レス) @page24 id: 9675cfd2c8 (このIDを非表示/違反報告)
ある(プロフ) - 更新本当にありがとうございます!!ずっと楽しみにしておりました、作者様のペースで進めて頂けると幸いです! (2023年4月21日 23時) (レス) @page24 id: 7187551de4 (このIDを非表示/違反報告)
ペペロンチーノ(25)(プロフ) - 更新待ってます! (2023年4月16日 15時) (レス) @page23 id: c1a1942ea9 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:プロシオンの烙印 | 作者ホームページ:https://mobile.twitter.com/6zp7JIEaL24NfiM
作成日時:2022年10月3日 16時