愛欲は戦争、狂気は耽溺【kgm】【njsj】

スモーキー・クォーツの警戒 ページ3

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「ーーーー！ーーーーー！」
特徴的な、空気を震わす音が聞こえる
風が吹き葉を揺らす音、寂しく重苦しい雨の音、轟々と燃え盛る炎の音。その全てを入り混じらせたような不協和音だった。それは、不協和音とするには美しく儚いものだったけれど。人の言葉ではない、動物の鳴き声よりも尊く神々しい何かの「声」
自然の摂理を現したような音なのにそれを声だと認識している自分に驚き、そしてそんな音が聞こえてくるという事実に一気に意識が覚醒する。何事かと飛び起き視線をやれば、その特別な調べの原因が、私のベッドの上でもがいている。
頭の上に浮かぶボロボロの輪。触り心地の良さそうなミルクチョコレートの髪。埃っぽいが質の良さそうな神官服にしなやかな体躯が包まれている。その背には人というにはあり得ない、白く大きな翅がある。包帯を巻かれたボロボロのそれが、ばさばさと音を立てるのを呆然と見つめた。
ーーあぁ、そう言えば。天使を拾ったんだっけ。
シーツが擦れる音がやけに大きく響いた。ふらふらと起き上がり風の吹き荒らす調べのような呻き声を上げる彼に、ハッと気がついて立ち上がる。膝に乗った教科書がすべり落ちる音がした。その音に反応して、興奮したような目線が向けられる。
ストレートの紅茶の入ったカップを覗き込んだような、そんな透明な眼差しだった。スモーキー・クォーツのように煌めいたその目に、激情を抑えて震えるその姿に、綺麗だなと場違いなことを思った。
「ーーーーーーーー！」
がちがちと歯を震わせながらこちらを睨んでくる彼は、何かを叫んでいた。どういう言葉なのかはわからない。けれど、爪を思いっきり膝に食い込ませる姿は明らかな拒絶を示していた。警戒されているな、と当たり前のことを思いながらもゆっくり天使に近寄る。嫌がるように後ずさる姿を見つめながら、さてこれからどうしたものかと思考を展開させる。落ち着かせなければ、包帯を巻いた意味がなくなってしまう。その考えと同時に、記憶の中にいるこちらを睨み付ける小さな子供が、彼と重なって見えた。あの時、私は何をして見せたっけ。
そう考えてから、ベッドの隣に座り込んだ。こちらを警戒するようにぎろりと煌めく瞳を横目に、目を閉じる。
「なにもしないから」
炎が燃え盛るような威嚇の声の主が、自分の言葉を理解しているかは、わからないが。これが、彼の心に届けばいい。それだけを思っている私自身が、どうしようもなくおかしかった。
「なにも、しないよ」

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